呪念満ちしその時に

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 そして今年度の生徒会執行部役員選挙で、会長立候補者が他になく、三上先輩は無投票当選した。  しかしそれは穏やかなものでは全くなかったらしい。“自分は会長なんかになりたくない”“でも、もし三上が会長になって、一緒に仕事することになったりしたら最悪”という理由から、2年生の間で水面下の問答が激しく繰り広げられていたのだと、先輩は吐き捨てるように言っていた。  それらを、この一瞬で思い返していた。 「あー…、滅多に話題にはならないです」  嘘ではない言い方で誤魔化すと、池田先輩は息を吐きながら露骨に安堵した微笑みを浮かべた。  優しい人だなと和みながら、池田先輩が所属する手芸部へと話題を移し、その後、うちで飼っているエキゾチック(猫)の可愛さを布教(じまん)したところで別れた。  先輩が職員室へ歩き出したのを確認し、一人印刷室へ向かいながら、体の強張りが解けていくのを感じる。  私は、池田先輩にさえ気を張っていたらしい。身内に自分を偽っているようで、後ろめたい。  不意に三上先輩の悲しげな笑顔が浮かんで、それがまた、苦かった。
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