無邪気な指摘

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無邪気な指摘

 一家はテーマパークに来ていた。  ふだんは仕事人間の父親も、正月だけは家族の行事につきあう。  小学生の息子はまだ反抗期ではなく、家族みんな揃ってのお出かけに浮かれている。  中学生の姉は思春期だが、ふだんから気が強いので、反抗期か否かはよくわからない。  母親は終始ニコニコしている。  そんな一家が、あるアトラクションの列に並んだ際のことだった。  折り重なる列を見渡した父親が、サッと目を反らした。  息子が気づいて、わざわざそちらを見た。  そして言った。 「姉ちゃん!  最近の女子のズボンって、スリット入ってるのがあんだね!」 「ばっ、ばか!」  姉は慌てて弟の口をふさいで、知らん顔した。  少し離れたところにいたオネーサンが、 「やだぁ、スースーすると思った~。」  隣の彼氏が、 「だからそんなデザインよせって言ったろ!」  そう言って、コートのなかのセーターを脱ぎ、彼女の腰を覆って結んだ。 「なるほど、なるほど。  ああいう振る舞いを紳士と呼ぶのですね。」  いつの間にかふり向いていた弟の頭に、姉のゲンコツが落ちた。 「痛っ。  オレから兄ちゃんへの見事なパスを、少しは認めてくれてもいいじゃんか。」 「アンタ、わざとだったの!?」  姉は小声で言った。無駄な努力である。  弟は親指を立てて彼氏に笑いかけた。  彼氏も親指を立てて返してくれた。  父親が視界の隅にそのやりとりを捉えてプッと吹き、微笑んだ。  母親はやっぱりニコニコしている。
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