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オレは遠慮しておく
一家はファミレスにいた。
それぞれ、ハンバーグランチやら握り寿司セットなどを食べ、それらはけっこうボリュームがあったのだが、成長期の姉がデザートを食べたいと言い出した。
「食べても太らないうちに食べておきたい!」
のだそうだ。
母親が、
「若いっていいわねえ。
なにが食べたいの?」
と言いながらメニューを手渡した。
姉はにんまりしながら、
「スペシャルパフェ正月盛り!」
と指差した。
それは、つぶ餡やカラフルな求肥、黒蜜などがトッピングされた、正月限定の和風パフェだった。
小学生の弟が横から写真を覗いて言った。
「おー! クリームもどっかり割り増しじゃん~。
オレも食いたいな。」
「いいわよ、頼みなさい。」
「んー、でもなあ、この生クリーム。」
彼はいったん口をつぐんだ後、
「男の身でホルスタインになっても困るし。
姉ちゃんは食えば?」
付近のテーブルの若い男性がむせて咳き込み、小さな女の子が「ほるすたんってなぁにー?」と親に尋ねた。
一家は支払いを済ませて、速やかにファミレスを去った。
店を出たとたん、姉の鉄拳が弟の頭頂に落ちた。
その後、母親のはからいで一家は喫茶店に入った。
「うおー! オレ、喫茶店はじめてー!!
綺麗だなすぅ~!」
通っている小学校では、父母同伴でない喫茶店の出入りは禁止されているのだ。
「お姉ちゃんに謝って、感謝しなさい。」
「姉ちゃん、このたびはわたくしめの口がすべりまして、どうもすみませんでした。そしてありがとうございマッスル~!」
ガッツポーズの腕をあちこちに繰り出す弟を、姉は横目でにらんだ。
「それは喜んでんの?」
「もちろんでございマッスル~!」
「……もういいし!
ほら! なに食べんの。」
ワルノリし始めた弟をチョップでいさめて、姉は隣の弟との前にメニュー表を置いた。
「ああ、ファミレスとは全然ちがいマッスル!
うまいのは・ど・れ・だ、神様の・い・う・と・お・り!」
目を閉じての指占いが示したのは、ブラックコーヒーだった。
姉は爆笑した。
「いいじゃん、喫茶店の看板はコーヒーだよ!」
「う~ん、たいへんオトナではありますが~。」
弟はケーキの写真の上に、指をさまよわせてしまった。
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