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そろそろ新学期
「たかしー! 実咲ー!
そろそろ正月気分抜いて、宿題でもしなさいよー!」
母親が2階に向かって呼びかけた。2階には、小学生の息子と中学生の娘の部屋がある。
それぞれの部屋から「うぃーす!」「はーい!」と返事があったので、母親は家事に戻った。
「姉ちゃーん。」
たかしが実咲の部屋をノックした。
「なにー?」
実咲はドアの向こうから返事をした。
「中央図書館行きたいんだけど、道迷うから、ついてきてくんない?」
「はあ? あんた、図書館も1人で行けないの?」
「だってオレ………気になる物見つけると、そっち行っちゃうから。」
「あー………。」
姉は納得したような返事をして、ドアを開けた。
「今から行くの?」
「いや、始業式前日までならいつでもいい。」
「ふうん。調べ物なら、スマホ貸したげてもいいけど?」
「いや、目当ての本があって。」
「へえ? あんた、読んだ本とか覚えてんの?」
「まあねー。」
姉は興味から訊いた。
「例えばどんなの勉強してんのよ?」
「うーん・・・
まあ・・・
例えば正倉院の・・・」
「正倉院?」
「・・・の、
設計図の一部とか。」
「・・・あんた、それ、どういうきっかけと経緯と目的で調べたのよ。」
「純粋なる興味。」
「意味わかんない。
明日までに中央図書館に行く目的と理由をペーパーに簡単にまとめな。付き添うか否かは、それによって決めるから。」
「ええー! 図書館を利用するのに審査があるんすかー!?」
「姉ちゃんだって忙しいの!」
「ポテチを空にするのが?」
「覗くな! とにかく書きなさい。」
高圧的な姉に、弟は目を座らせて言った。
「そうやってさ、子供の興味関心に甲乙つけようとするの、よくないと思うよ。感性は『せんさまんべつ』なんだから。例えば───」
「例えば?」
言ってみなさいよと顔に書いてあるような姉に、弟は言った。
「ケージービーのことを、カーゲーベーとも読むけど・・・
ちょっとしたダサさが・・・
かえって通っぽくてお気に入りとか。」
姉は「しょうもなっ」と吹き出し、
「わかったわよ、子供の自由な感性につきあうわよ。」
と、付き添いを承諾した。
「ラッキー! 明日来てくれる?」
「オッケーオッケー。」
「サンキューまるきゅーバーベキュー!」
弟は意気揚々と自分の部屋に戻っていった。
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