留守番一大事?!

1/1
前へ
/43ページ
次へ

留守番一大事?!

 その祭日の午後、実咲が部屋で勉強をしていると、ドアをノックした者があった。 「はいー?」 「姉ちゃん………。どうしよう。」  ドアの向こうで、ひどく弱りきった弟の声がした。 「なによ、どうしたのよ。」  何事かと思ってドアを開けると、弟のたかしが茫然自失といった顔で立っていた。  姉の問いかけに、弟は言った。 「母ちゃんから預かったクレジットカード……なくしちゃったみたい。」 「はあ!?」  その日、母は朝から電車で二駅先の実家に行っていた。実家のご近所で法事があったためである。何か急な買い物があったときのためにと、母はクレジットカードを1枚、子供たちに渡していっていた。 「わーお、クレジットカード!  オレ持ってたい! 持ってたい!」  騒いでねだった弟に、姉はクレジットカードを渡していた。  それが、紛失!? 「あんた、午前中遊びに出たけど、どこ行ったの?! いや、その前にカード会社に電話しなきゃ!」 「………拾って連絡してくれた人、いるかな。」 「そうじゃないわよ! カードの利用を止めるの! でなきゃ使われるかも知れないでしょう!」 「あ、そうか。電話しておけば大丈夫なの?」 「大半はね! ただ、急がないと。  母さん、電話できるかな。」  すると弟が急に明るい顔になった。 「大丈夫だよ、電話なんかしなくても。」 「はあ!? なに言ってんの!  勝手に使われて、借金背負うはめになるかも知れないってときに!」 「大丈夫だよ、だって」  弟は背中に回していた手をずいと前に出した。 「カードはオレが拾っておきました。」 「はぬ?!」  姉は思わず噛んだ。  そんな姉を前に弟はニコニコしながら言った。 「なくした時の対処法を知りたかったんだよね。  まともに聞いたって、姉ちゃんどうせ、「その前になくさなきゃいいのよ!」とか言って教えてくれないっしょ?」  笑う弟を前に、姉は般若の顔になっていった。 「あんたは!  嘘も方便って言葉があるけど、私は嘘は認めないわよ!  人を騙すなんて、どういうつもり!?  だいたい、嘘の内容がよくない!  こっちは心臓が縮み上がったっていうのに!」  それはそうである。もし紛失が事実だったら、そんな大事な物をまだ小学生の弟に持たせた自分の責任だ。 「聞いてんの?!」 「聞いてマッスル~♪  いや、とにかく対処法がわかってよかった。  オレひと安心♪」 「ばか! なくすこと前提に預かるんじゃない!」 「前提になんかしてないよ。  万一を考えてのことだよ。  オレって用心深い~。」  ああ言えばこう言う弟に、姉の怒りはマックスに達した。 「姉ちゃんの説教をまともに反芻しなさい!」  弟は斜め上を見つめたあと、視線を戻して言った。 「はい、しみませんでした。」 「よろしい。でも、カードは姉ちゃんに返しなさい。」 「ええー!」 「自業自得!」  姉は弟の手からカードを取ってドアを締めた。  そしてふと気づいた。  あいつ、「でした。」って言った? 聞き違い?  姉はドアを開けた。  そこには、マジで消沈している弟が肩を落として立っていた。 「もう一度、きちんと謝りなさい。」 「はい、すみませんでした。」  姉は、「今日は母さんが帰ってくるまで外出禁止!」と言って、弟の額にぺしっとカードを当てた。そのまま手を離す。 「おっと!」  弟は反射神経良くキャッチした。 「サンキュ~でーす♪」  姉は軽くうなずいてドアを閉めた。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加