1人が本棚に入れています
本棚に追加
留守番一大事?!
その祭日の午後、実咲が部屋で勉強をしていると、ドアをノックした者があった。
「はいー?」
「姉ちゃん………。どうしよう。」
ドアの向こうで、ひどく弱りきった弟の声がした。
「なによ、どうしたのよ。」
何事かと思ってドアを開けると、弟のたかしが茫然自失といった顔で立っていた。
姉の問いかけに、弟は言った。
「母ちゃんから預かったクレジットカード……なくしちゃったみたい。」
「はあ!?」
その日、母は朝から電車で二駅先の実家に行っていた。実家のご近所で法事があったためである。何か急な買い物があったときのためにと、母はクレジットカードを1枚、子供たちに渡していっていた。
「わーお、クレジットカード!
オレ持ってたい! 持ってたい!」
騒いでねだった弟に、姉はクレジットカードを渡していた。
それが、紛失!?
「あんた、午前中遊びに出たけど、どこ行ったの?! いや、その前にカード会社に電話しなきゃ!」
「………拾って連絡してくれた人、いるかな。」
「そうじゃないわよ! カードの利用を止めるの! でなきゃ使われるかも知れないでしょう!」
「あ、そうか。電話しておけば大丈夫なの?」
「大半はね! ただ、急がないと。
母さん、電話できるかな。」
すると弟が急に明るい顔になった。
「大丈夫だよ、電話なんかしなくても。」
「はあ!? なに言ってんの!
勝手に使われて、借金背負うはめになるかも知れないってときに!」
「大丈夫だよ、だって」
弟は背中に回していた手をずいと前に出した。
「カードはオレが拾っておきました。」
「はぬ?!」
姉は思わず噛んだ。
そんな姉を前に弟はニコニコしながら言った。
「なくした時の対処法を知りたかったんだよね。
まともに聞いたって、姉ちゃんどうせ、「その前になくさなきゃいいのよ!」とか言って教えてくれないっしょ?」
笑う弟を前に、姉は般若の顔になっていった。
「あんたは!
嘘も方便って言葉があるけど、私は嘘は認めないわよ!
人を騙すなんて、どういうつもり!?
だいたい、嘘の内容がよくない!
こっちは心臓が縮み上がったっていうのに!」
それはそうである。もし紛失が事実だったら、そんな大事な物をまだ小学生の弟に持たせた自分の責任だ。
「聞いてんの?!」
「聞いてマッスル~♪
いや、とにかく対処法がわかってよかった。
オレひと安心♪」
「ばか! なくすこと前提に預かるんじゃない!」
「前提になんかしてないよ。
万一を考えてのことだよ。
オレって用心深い~。」
ああ言えばこう言う弟に、姉の怒りはマックスに達した。
「姉ちゃんの説教をまともに反芻しなさい!」
弟は斜め上を見つめたあと、視線を戻して言った。
「はい、しみませんでした。」
「よろしい。でも、カードは姉ちゃんに返しなさい。」
「ええー!」
「自業自得!」
姉は弟の手からカードを取ってドアを締めた。
そしてふと気づいた。
あいつ、「しみませんでした。」って言った? 聞き違い?
姉はドアを開けた。
そこには、マジで消沈している弟が肩を落として立っていた。
「もう一度、きちんと謝りなさい。」
「はい、すみませんでした。」
姉は、「今日は母さんが帰ってくるまで外出禁止!」と言って、弟の額にぺしっとカードを当てた。そのまま手を離す。
「おっと!」
弟は反射神経良くキャッチした。
「サンキュ~でーす♪」
姉は軽くうなずいてドアを閉めた。
最初のコメントを投稿しよう!