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行ったり来たりなお年頃
「わたし、「ハチミツかける?」って訊かれたとき、メープルシロップがいいなって思ったんだけど、言えなかったの。せっかくホットケーキ焼いてもらったから、いちばん美味しく食べたかったの。
でもね、友達の家だし、前にお母さんからメープルシロップの値段聞いたことあったから、言えなかったの。
それを『毎日日誌』に書いたら、先生がメッセージ欄にね、『それくらい、言ってもいいと思いますよ。我慢して食べるのは、かえって失礼なこともあります。』って。それはわたしもわかってたの。でもさ、わかってるんだけど言えないことってあるじゃない?
先生、全然わかってないよね。」
教室で女子がそんな話をした2日後、その愚痴っていた女子に、たかしが「ほら。」と言って、自分の毎日日誌を開いて見せた。
「なに?」
「いいから読めよ。」
「えー? うん。
『友達の家でカレーライスを出されて、「福神漬けとらっきょう、どっちがいい?」って訊かれたとき、僕は「カツ!」……とは言えませんでした。』
ーー 当たり前じゃない! あんたばかじゃないの!」
「メッセージ欄見て。」
たかしはやや得意げにメッセージ欄を指でつついた。女子は読み上げた。
「『それは先生も言えないなあ。笑』
……? なにが言いたいの?」
「つまり、こないだお前の欲しかった回答はそれだろ?」
「やだ、聞いてたの?」
「教室で話してて、聞いてたの?も何も。
とにかく、お前の心境を伝えてやったんだから、『それがあの時の私の心境です!』って、ここに書けよ。名前もな。」
「ええー?」
「わかってもらえないままじゃくやしいだろ。」
「そりゃそうだけどー。」
翌日、その女子の毎日日誌には、先生からの謝罪の文が添えられていた。
「たかし! これ見て!
ありがとう!」
なんだかんだ言ってたわりに、女子は嬉しそうだ。
「どういたしまして~。」
「でも、なんであれで伝わると思ったの?」
「ま、オトナと子どもの、主に金銭感覚の違いに着目したっていうかね。」
「んー。よくわかんない。」
「君もオトナになればわかるさ。」
たかしは笑いながら、毎日日誌をパッと取って席に戻り、それをしまうと男子の輪に走っていった。
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