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2日目の雪
「もー! きゅんきゅんするー!!」
ソファーに座ってドラマを観ていた姉が、クッションを抱きしめて悶絶した。
「何がいいの? こんな甘ったるいドラマ。」
弟が首を傾げた。
姉はガバッと跳ね起きて、
「ヒロインを励ます言葉の数々!
あんたもこれくらい言えるようにならなきゃ、嫁を選べない男になるわよ!」
「女励ますなんてめんどくせぇよ。」
「結婚市場の厳しさがわかってないわねー、あんたは。」
そんなある日、大雪が降った。
翌々日、母は子供二人を連れて徒歩で買い物に出た。
途中でシャッター街を通った。
人手が足りなかったのか、雪かきがされておらず、半分溶けて踏まれた雪が再凍結していた。まるでスケートリンクである。しかもでこぼこで、危険極まりない。
親子3人は、やじろべえのように両腕を広げてバランスを取りながら、そこを通った。別のルートもあるが、こんなときでも近道したいのが人情である。
赤信号でいったん休憩となった。
待っている場所も凍っている。
信号が青になった時、不意に弟が言った。
「姉ちゃん。
例のドラマの姉ちゃん憧れのセリフ、言ってあげようか?」
「あんたに言われてもねぇ。」
姉は鼻で笑ったが、却下するでもない。
弟は気取った声で言った。
「─── 君の背中を、そっと押してあげてもいいかな……」
「やめなさい。こんなときに。」
母が横からソッコーで止めた。
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