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__正月の日に、無名の作品を見た。
窓辺に映ったその作品は、とても小さな雪の塊だった。
「君もさ、こうして長く続けていて」
「はい」
「今年もこうして、そんなのを作っていて」
「そんなのとは何かね」
「いや、飽きないと思わないのか?」
相変わらず小さく並べられた雪達磨の隣に、空き缶を置く。
今年の雪は例年以上にしつこいようで、溶ずに残った塊の隣で彼女は笑っていた。
「手持ち無沙汰の幽霊なモノで」
半透明で物静かで。
幽霊とは、日陰のような存在だと思っていたが。隣人はそれに当て嵌まらない様だ。
「そういう君こそ、こんな場所まで毎年欠かさず足を運ぶなんて。暇人を通りこして愚か者等と言われないか?」
「私の口調を真似するなよ」
「いいじゃないか。……そんな事より、仕事はどうしたのかね?隣人さん」
「ああ。仕事はいかなくてよくなったよ」
「これまたどうして」
「行かなくてもいい程、偉くなったのさ」
冗談交じりに答える。
「そうかそうか。君も、その他大勢の様に暇を持て余している訳だな」
暇であるかは分からないが。
「君はとても大きかっただろうに、とても小さくなってしまったな」
「君ほどではないさ」
「とてもヨレヨレになってしまった」
「変わらない君には、分からない積み重ねがあるのだよ」
「__ああ、だけども」
始発列車が、傍を通る。
かく言う私達を通過し、透明色を証明した。
今年は雪が降り続いていた。
大きな雪達磨を作れそうだ。
「こうして君は、変わりない墓参りを続けてくれたね」
「君との一年も、”積み重ね”だからね」
廃駅には誰も来ず。
捨てられた者を知る人は無い。
顔が無い雪だるまだけが、始発列車の窓辺に映る。
誰の作品であるのかは、知る事はないだろう。
いつの間にか。それは二つに、増えているかもしれない。
ふと気づいた君も、何時かそれを忘れて日常に戻る筈だ。
君を引き付ける余計なモノは、とても多くて限りない。
ドッペルゲンガーの噂さえ、死ぬ世の中だ。
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