1 裏アカ男子のそのこころは

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 俺はベランダに出て、そこからの風景と手元の写真を見比べてみた。やっぱりそうだ。鈍い銀色をしたベランダの手すりも、遠く右のほうにゴミ処理場の煙突がそびえたっているのも、まるっきり写真と同じ構図だった。つまりこの写真はここから撮られたものだってこと。  写真の投稿主のアカウント名は「匿名希望。」となっている。リアル用のアカウントではなさそう。でも、わざわざ別のクラスの教室の、それもベランダに出てまで写真を撮るとは考えにくいから、投稿主はうちのクラスの人に違いない。誰なんだろう。  いや誰が撮ったにしろすげえきれいな写真だってことに変わりはないか。そのことがこの「匿名希望。」さんに伝わればいいなと思って俺は親指でいいねを押した。  すると背後から、ピロリン、とちょっと間抜けな音が聞こえてきた。SNSアプリの通知音だ。俺のスマホは手元にあるからもちろん俺にきた通知ではない。  ベランダから教室に戻ったが、まだ三人とも帰ってきていないようだった。俺の中の小さなシャーロックホームズが再びむくっと起き上がる。  三人の中でスマホを置いていったのは大路だけだ。でも大路はSNSの類を一切やっていないはず。じゃあどうして通知音が聞こえたのだろう。それに、仮に大路が内緒でSNSをやっていたとして、どうして俺がいいねしたタイミングでちょうどよく通知音が鳴ったのだろうか。 「いや、まさか、そんな。偶然だよな……?」
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