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「ていうか、別れるの早くね? この前付き合ったばかりじゃん」
微妙な感じになってしまった空気をとりなすように佐藤が俺に話を振ってきた。
「一ヶ月……と、ちょいかな」
「どっちから別れを切り出したんだ? ユキチカから?」
「いや向こうから」
「マジ? 告白してきたのも向こうからじゃなかったっけ」
鈴木が机に肘をついて身を乗り出す。
一ヶ月ちょっととはいえ付き合っていた女の子の悪口は言いたくないが、理不尽にフられてむしゃくしゃしているのもあって俺はやぶれかぶれになって答えた。
「そうだよ。いきなり別れようとか言われて意味わかんねー」
「なんで別れたいって言われたんだよ。ユキチカがなんかしたんじゃねーの?」
「いや? 『ユキチカくんって優しい他人だよね』って言われて、そのまま別れ話」
「優しい他人って何さ」
佐藤に問われて俺は言葉に詰まる。
ユキチカくんって優しい他人だよね。
そう言われてから何度も心の中で反芻した。あの子が言いたかったことは、なんとなく、わかる。
説明しようと口をぱかっと開けた途端に遠慮の心が急に顔を出した。面白い話でもないし、せっかく佐藤と鈴木が明るく茶化してくれたのを微妙な空気にするのは忍びない。俺は言おうとしていたこと全部を一番シンプルなひとつの答えに置き換えた。首を横に振る。
「知らん」
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