1 裏アカ男子のそのこころは

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 しばらくして、佐藤と鈴木が口直しの飲み物を買いに行くと言い出した。やっぱりまずいよなあ、あれ。 「じゃあおれもトイレ」  続いて大路が立ち上がる。これには困った。炭酸飲料をがぶ飲みしたせいで実は俺もトイレに行きたいのだ。でも大路と連れションするなんて嫌じゃん、女子みたいでさ。だから俺はひとりで教室に残ることにした。  すぐに戻ってくるから三人とも荷物は置きっぱなしだ。投げ出された黒いリュックサックはどれも似たり寄ったりなデザインなのに誰のものかは一目瞭然だった。こういう細かいところにその人の本当の性格が出るものだ、なんて、俺の中の小さなシャーロックホームズがほくそ笑む。  床に転がっているチャックが開けっ放しのリュックサックは、大雑把な佐藤のもの。その隣の、おそらく彼女とペアであろうキャラクターのキーホルダーをつけているのが鈴木のものだ。  そして、二人の荷物と違って几帳面にも椅子の背もたれに立てかけてあるのが大路のリュックサックだろう。上の部分がほんの少し平らに潰されていて、そこにはスマホが置かれている。  そういえば大路はトイレに行くと言ってたっけな。トイレで落としたら嫌だから置いていったのかもしれない。いかにもきれい好きな大路のやりそうなことだ。  名探偵ごっこにはものの数分で飽きた。俺はブレザーのポケットから自分のスマホを取り出し、青い小鳥のマークのアプリをタップして開いた。もはや知らない人のほうが珍しいくらい、高校生の間ではメジャーなSNSだ。
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