カピバラの飼育員

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 だが、現実は甘くなかった。  どういうわけか、翌日から鬼上司がすこぶるご乱心だったのだ。  午前の外回りで何の成果も残せなかった私は営業部、いや会社内の隅々にまで響き渡る怒声で叱られた。  経験上なんとなく察しているのだが、この上司、富田営業部長が出社時から機嫌が悪い時は大抵奥さんと喧嘩した時か、思春期の娘に『お父さん臭い』とか言われた時だ。  今日も恐らくは、家庭内での鬱憤をここで、特に私に、当てつけているのだろう。  悔しい気持ちはあるが、確かに営業成績が壊滅的な結果だったのでお怒りを受けるのは当然でもある。  あるのだが。 「やる気ねぇなら自主退職しろ!この給料泥棒!」等とひどく大きい声を浴びせられるとやはり感情は激しく揺さぶられるし、貴様の髪をぶち抜きたくなってくる。  脳内に京介お兄さんを降臨させても、やっぱり胸の痛みは紛らわすことができなかった。 「もういい、戻れ」  説教が終わった頃には富田部長はどことなくスッキリした様子に見えたが、私は今にも泣きそうな顔になっていた。  デスクに戻って事務作業に移ったが、数字を入力しなければならないエクセル画面が溜まった涙のせいでぼやけてよく見えない。  あんなに怒らなくたっていいのに。やる気はあるけどどう頑張っても上手くいかない日だってあるんだよ。  と思うが、結果の出せない自分自身にもやはり腹が立つ。  零れそうになる涙を流すまいと下唇を強く噛んでキーボードを打っていると、何かが飛んできて手に当たった。  驚いてそれに目を向けると、カカオ80パーセントチョコレートが入った個包装。  これをくれるのはいつも決まった人物だ
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