カピバラの飼育員

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「赤ちゃんの名前なあに?」  カピバラを見ている群衆の中から子供の声が聞こえた。  お兄さんがそれに反応して口を開くので、これは動画モードに切り替えだ!と指が勝手に録画を始める。 「名前はまだ決まってないんですよ。今募集してるから何かいいアイデアがあったら、向日葵動物園のホームページに送ってくれると嬉しいです」  質問をした幼い男の子にも丁寧で優し気な口調で話すのに、顔は優しさのないポーカーフェイスなギャップもまた良き!  私の好きなタイプを熟知しているぞあの方は。 「性別はまだわからないんですよね」と茶色の毛を撫でながら説明するその姿を録画しながら、私はただただカピバラのベイビー達が羨ましかった。  いいなぁ、あのコ達は。  存在してるだけで可愛い可愛いともてはやされて、テクニシャンで間違いなさそうなあのお兄さんの手で頭や背中を撫でてもらって…。  私もお兄さんに飼われたい…………。 『ほーら燈子(とうこ)。さつまいもだ、食べるか?』  モシャモシャモシャ(咀嚼音) 『うん、綺麗に食べれたな。偉いぞ、燈子。じゃあ次は毛を梳いてやろう』  パグゥーン!(鳴き声)  そんな危ない妄想をしているうちに、カピバラベイビーのお披露目イベントは終わってしまい、お兄さんもどこかへ行ってしまった。  それから他の動物を見て回り、お腹が空いてきたので芝生の上で姉が作ってくれたお弁当を広げた。  完食したところで真由がさっきのカピバラの写真が見たいと言うのでスマホを見せてあげると、肝心のカピバラが一匹もちゃんと写っておらず、お兄さんの写真だけが大量に出てくるので「お姉ちゃんまちがえてるよ!もうっ!なにやってるの!」と四歳児に叱られたが、お姉ちゃんは間違えたわけじゃないんだ。  本当は指が勝手に動いたわけでもなかった。  お姉ちゃんはただ、あのカピバラベイビーよりも、あのお兄さんを記録に残したかったんだ!許せ!  きっと真由も大人になればわかる。  時にイケメンは、どんなに可愛い動物よりも極上の癒しを与えてくれることをね!
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