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「…そうじゃなくて。前に動物園で泣いてた理由が訊きたかったんだけど」
「泣いてた理由?」
「カピバラが自由そうだからって適当に誤魔化してたけど、本当の理由はなんだったの?」
「あぁ、あれは」
お酒の回った頭でなんとか当時を思い出せば、自然と頬が赤らみを帯びる。
「ずっと会いたかった京介お兄しゃんに会えて、しかも私を見て会釈してくれたから…」
「…それで泣いたの?」
「だって…。推しが自分に気づいてくれたら泣けてくるでしょ…?」
「俺って早瀬さんの推しなの?」
「推し…というより、憧れ…?」
酔っている女は平気であざとい言動をするものだ。
恥ずかしみを含んだ表情で隣を見上げると、永戸さんは僅かに両眼を見開き喉仏を上下させた。
憧れを超えてもはや恋しているのだが、それをあえて言わないのがあざといだろう。
酔っているのに小賢しい部分だけはうまく働いているようなので私も悪い女だ。
「じゃあさ」
ややすると永戸さんがこちらを見ずに聞いてきた。
「俺のこと写真に撮ってたのは、本当にカピバラを撮るついで?」
「まさか!この際だから暴露しちゃうけど、あの日私は京介お兄さんだけを撮るつもりで動物園行ったんだよっ」
「俺を撮りに…?」
「うん!あ、でもね写真はね、本当にちゃんと消してるから安心してくらさーい、あはははは」
面白いことなど何一つ起こっていないのに爆笑しだす私を、永戸さんがポーカーフェイスで見つめてくる。
だいぶヤバい暴露をしているから心底引いているに違いないのだが、どうしたっていろんなことが面白くて可笑しくてしょうがなく、ただただ笑ってしまう。
私は酔うと笑い上戸になるのだ。
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