カピバラの飼育員

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 午後からもカピバラの赤ちゃんのお披露目イベントがあることを園内の掲示板で見たので行きたかったのだが、真由が「ちゅかれたー!帰りたいー!」と泣き出すので、飼育員のお兄さんに会いたい欲をなんとか飲み込み、動物園を後にした。  バスを乗換え、十五時前には姉の家に到着。  姉に「これで何か食べて」と渡されていた五千円を使い果たすつもりだったが二人前のクレープしか買わなかったので返すと、「ケーキあるし食べてかない?」と誘われた。  ソファーでテレビを見ているうちに眠ってしまった真由にブランケットをかけた後、姉は私が座るテーブルに戻って座り直した。 「そういえば圭吾さんは?」 「今買い物に行ってくれてるの」  三つ年上の三十歳の姉は、二人目を妊娠中。  真由の時と違ってつわりがひどかったらしいが、旦那さんの圭吾さんの献身的な支えもあり、最近はつわりも楽になってきたことから食欲が戻ったそうだ。  きっと少しやつれた頬もこれから戻るだろう。 「今日はありがとね。折角の休みなのに、本当は休みたかったでしょ?」 「ううん、大丈夫。真由との約束やっと守れたし、一緒に出かけたお陰でむしろ元気が出た気がする」 「そう?でも帰ったらよく休んでよ」  私の勤務環境を知る姉は「前よりもっと痩せてない?」と心配するような目を向けてきた。  確かに会うたびに痩せていると思う。実際に体重は緩やかながら毎月落ちていて、食欲もあまりない。  食欲より、睡眠が勝る。  「もうあの会社辞めたら?転職先なんて探せばちゃんとあるもんなんだし」 「でももう五年働いてるし慣れてるから。それに部長にはおまえはどこに行っても役に立たないだろうなとか言われて、私も本当にそうだろうなって思うから。私なんかが働かせてもらえてるだけありがたいなって思うし」  就職内定がないまま大学を卒業し、その後も就職活動に明け暮れやっと受け入れてもらった会社だ。  どこも必要としてくれなかった私を採用してくれたのだから深い恩がある。
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