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「仕事は確かに忙しいしよく怒られているから、もしかしたらメンタルに大きく影響してるかもしれない。だからって死んでしまいたいとかは考えないからまだ大丈夫なんだと思うよ。でもそうだよね。飼育してほしい…なんて、ホント、気持ち悪いよね」
時間を巻き戻す能力があったらベッドで起きた私まで戻して、寝ぼけて『はにゃ?』とか言っちゃう可愛い女を演じるけど、もう遅い。
気持ち悪い認定、されちゃってる。
手に持つ茶碗の中を見つめている永戸さんも、はよこの女帰らんかな…と思ってるかもしれない。
自業自得だけど居にくさを感じ始めると、唐突にスマホの着信音が部屋の空気を揺らした。
これは間違いなく会社から支給されている私の仕事用のスマホの着信音。聞くたびに心臓を鷲掴みにしてくる恐怖の音。
嫌な予感を背中に感じながら鞄を探すと、それは開けっ放しにしていた寝室の引き戸の前にあった。
鳴り終わる前に出なければと急いで鞄を掴み取りスマホを取り出す。液晶画面には富田部長と出ているので肩に鉛を乗せられたように全身が重く感じた。
「も、もしもし」
『おい早瀬。どうなってんだよ』
「えっ、な、何がですか?」
『何がですかじゃねーだろ。今日の朝一のミーティング資料、お前日付変わる前に送るって言ってたよな?なんで届いてねーんだよ』
一瞬思考が止まって、次には血の気が引けた。
資料はあと少しで完成だったので後は家でやって部長に送ろうと考えていたのだが、サシ飲みイベントからの朝チュンですっかり忘れていた。
「す、すみませんっ。あ、あの、もうほぼ完成なんです!だからすぐにっ」
『ほぼ完成ってなんだよ!日付変わってんだろ、何やってんだよ』
「すみませんっ。絶対間に合わせますからっ!」
『間に合ってねーだろ、日付変わってんだからよ』
「すみませんっ!会議には必ず間に合わせますのでっ!」
まだ言い足りない様子の上司にすみませんの連呼をしながら電話を切るが、久しぶりに完全なる自分の非で怒られたので冷や汗が私の肌を濡らし、目の焦点がどこにも合わない。
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