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忍者の末裔
火事場の馬鹿力で仕上げた資料は、なんとか朝のミーティングに間に合った。
だからといってお説教回避は無理なもので、私は本日も会社のみんなに聞かれるような怒声で富田部長に怒られた。
今回は私がいけなかったので甘んじて受けようと耐えていたのだが、(いつも耐えているが)十分ほどした時富田部長に電話がかかってきたので、想像してたよりはやめに解放された。
どこのどなたか存じ上げないが、電話の相手に深く感謝したいし、その人に道端で五百円玉を拾うくらいの良いことがあればいいと願う。
その後私は前にアポを取っていた卸売店を訪問した。
営業部で働いて五年になるが、相変わらず自社商品の紹介が下手だし自信のなさも表情に出る。
それなのに、今回は営業がうまくいき、見事に新規顧客を獲得した。今日はこれ以上上司に怒られたくないという私の必死さが手助けしたのかもしれない。
私は笑顔で会社に戻った。
いつもは怖くてわざと歩幅を狭くして上司の机に向かうのに、今日は聞いてくださいよとばかりに足急ぐ。
「富田部長」
気難しそうな表情でパソコンを見ていた部長を呼び、私は本日の成果を報告した。
私は思い込んでいたのだ。
褒められることを。
「早瀬、上機嫌で報告してるけどな、取れて当たり前だから」
「……はい」
そうだった。できて当たり前だったんだ。
それなのに私は何をニコニコと、まるで池の主を釣りました!みたいに大袈裟に報告してしまったんだ。
できて当たり前のことを、私はいつもできないから、怒られているのに。
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