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動揺して震えてしまったので、コップから零れたコーヒーが台を濡らしてしまった。
急いでキッチンペーパーで拭きながら「や、やだなぁ」と無理やり笑顔を浮かべる。
「さっきの本気で言ってると思ったの?」
「違うの?」
「違うよ~、もう。なんか、ほら。部長に怒られたからやけっぱちになって適当に言っただけ」
「なんだ適当か。飼ってほしいんなら俺が飼ってやろうって思ったのに」
「……え?」
今なんて言った、と驚いて顔を上げたが、冴島さんはコーヒーの香りが立つカップを持ち上げると「今日も残業だな」と笑い、給湯室を出て行っていった。
私は暫く冴島さんの残像を眺めていた。
胸がざわついている。『俺が飼ってやろうって思ったのに』が頭をループする。
京介お兄さんには飼いたくないと言われてしまったけど、冴島さんなら飼ってくれるの…?
そこまで考えて覚醒した。
危ない。危ないぞ燈子…。
私は京介お兄さんに飼われたいのであって、誰でもいいわけじゃないんだぞ。
ズズズ、とコーヒーを飲んでから深呼吸をして、私は仕事に戻ったのだった。
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