カピバラの飼育員

6/11
618人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
   それからブラック企業で社畜として生きる私を癒してくれるのは、スマホに眠っている飼育員のお兄さんの写真と動画。  そしてそれらをおかずに妄想する時間だった。  鬼上司にしこたま怒られても、最後の一人になるまで残業してても、終電を逃してネットカフェで泊まることになっても、あのお兄さんを見れば私の心は救われ、妄想が止まらなくてシリーズ化するレベルなので想像力も豊かになれた、と思う。  それでも私にはあってないような分別があるので、あの爽やかお兄さんを使って性的な妄想はしていなかったが、昨日は極度に疲れていたせいか、頭を撫でてくれていたお兄さんが急に雄の顔になり『もう我慢できないよ、燈子…』と押し倒してくださる妄想をしてしまったので、そろそろその分野にも手を出してしまいそうで危ない気がする。  いや、もう片足はどっぷり突っ込んでいる。  日に日にお兄さんが恋しくなり、仕事中に上司の目を盗み、向日葵動物園のホームページも開いてみた。  するとそこで、私は奇跡を体験した。  なんとホームページには『カピバラの赤ちゃんお披露目イベント』のポップがあり、そこを開いてみるとあのお兄さんの写真も載っていたのだ。  その何が奇跡かというと、お兄さんの写真の下に『カピバラ達の飼育を担当している京介お兄さん』と紹介されていたのだ。  京介お兄さん!!  そう、私はあのお兄さんの名前を知ることができたのだ。  その奇跡は私に凄まじいエネルギーを与えたもうた。  一日中ニヤつきが止まらず、上司には「何笑ってんだよ!ふざけてんのか!?」と叱られ、営業先の方々には「今日は元気そうですね」と何故か安心された。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!