カピバラの飼育員

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 名前を知ってしまうと、想いがより一層募るものだ。  これは間違いなく、恋だ。  私は数分目にしただけの京介お兄さんに恋をしてしまっている。  日を増すごとに、京介お兄さんに飼育される妄想も過激化し、写真を見るだけで涙が出る。  私はいよいよいろいろと危なくなってきている。  そう自覚した私は、社畜にとっては何よりも大切な休日、日曜日に、姪っ子と再び動物園に行く約束をした。  姉はまた行くのと呆れた感じではあったが、真由は「どうぶちゅえんまた行くの!?やったーやったー」と電話越しに喜んでいる様子がわかった。  京介お兄さんに会えるイベントが待っていると思うと仕事も苦ではなくなってくる。  いや、やはり苦だ。  苦なのだが、ダメージを食らっても即効性の高い回復魔術を知っているような、そんな心強さがあったのだ。  そんな日曜日を楽しみに生きていたある水曜日の夜。  残業がいつもより早めに終わり、帰宅途中のスーパーマーケットへ食料品などを買いに来た。  食欲はやはりないので何を見てもときめかない。  とりあえずカップ麺をいくつかカゴに入れ、久しぶりに野菜ジュースも買うかと足先を方向転換させた時、ソース類が並ぶ棚を見ている男性に気が付き、瞠目した。  あの男の人!京介お兄さんに似ている!?  似ている、だけかもしれない。まさかこんな所で会えるわけがない。  そうは思うが、確かめたくて陳列品を見るフリをしながら近づいていく。  そして1メートル程まで距離が縮んだところで、ようやく彼が本物の京介お兄さんであることを確信した。  そうなると手足が震え、呼吸が乱れ、頭部が熱くなる。
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