カピバラの飼育員

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 早口で話した私の言葉を脳内処理するのにやや時間がかかったようだが、京介お兄さんはやっと口を開いてくださった。 「向日葵動物園に来てたんですか…?」 「はい、二週間ほど前に!」 「そうだったんですね」  ようやく納得したような表情をする京介お兄さん。  そこに笑みはないが、私の顔を見てくれているだけでありがたく、この上ない奇跡である。  生きてて良かった。 「あの、ですから、えっと、姪っ子と一緒に応援してます」 「ありがとうございます。またカピバラ達見に来てください」 「は、はい!必ずや!」  しばしの間私を見ていた京介お兄さんだったが、そのうち「じゃあ…」と会釈をした。  私も頭を下げると、お兄さんのつま先が向こうへ向く。  大いなる存在が与えたもうた癒しイベントは終わってしまったのだ。  本当はここでお兄さんに縋りついて『私も飼育してください!カピバラのように!』とお願いしたいが、限界社畜とはいえまだ人間を捨てるほど精神が壊れているわけではないので、ぎゅっと拳を握り我慢我慢。  私には高スキル高レベルの妄想力があるのだからそれで我慢。  そう思いながら、京介お兄さんと別れたのだった。  数十秒程の短い癒しイベントではあったが、京介お兄さんと話せた興奮は、一人暮らしをしているアパートの部屋についても、久しぶりに晩御飯を作ってみても、布団に入っても、なかなか冷めなかった。  そうなると益々お兄さんが恋しくて、益々日曜日の動物園行きが楽しみになって、どんなことが起ころうとも屈しない最強のメンタルを得たような、そんな強さが漲ってきたように思えた。
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