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第一話「再就職」
やがてシンギュラリティがおきるなんて言っていた奴は誰だ?
嘘を言いやがって、あいつらとっくに人間なんて超えてるぞ。
半年前、俺は会社をクビになった。
俺が勤めていた会社は5年前まで、従業員10名の小さなベンチャー企業だった。
システム開発、AI用プログラム、ドローンなどに使用するためのセンサーの開発。
AI、ドローン用センサー、最新技術の開発っぽく聞こえるだろう。
しかし、この2つに関しては全く儲かっていなかった、会社を支えていたのは、委託業務のシステム開発だった。AIやセンサーは赤字部署だ、やればやるほど会社に赤字を出していた。俺はAIプログラム開発担当だったのが、俺が出す赤字は俺の人件費だ。しかしセンサーを担当していた部署は、どうしても材料費がかかってしまう、山のように積まれた試作品の数ほど会社に不利益をだしていたわけだ。
しかし、社長は
「もう少しだけ頑張ってみよう!俺たちは新しいものを作りたくて、新しい価値観を作りだしたくてこの会社で頑張っているんじゃないか!!」
そう言って俺たちに研究を続けさせてくれた。
そんな時に世界が変わった。
新種のウィルスが世界中でパンデミックを起こした。
そのせいで、至る所でセンサーによる健康チェックが必要となった。
そんな時、俺が委託業務を手伝った時に作った老人ホームの健康管理システムと、センサー担当が作った「顔色チェッカー」を組み合わせることで、一瞬でユーザーの健康状態をチェックする商品を開発した・・・・・
大当たりした。
「一瞬人間ドック」はもともと開発費が少ないなかセンサー開発をしていたことが低コストで商品化することを実現した。
会社は一瞬で大きくなった。
駅から徒歩10分のマンションの1室から、駅近のビルのワンフロアに、10人しかいなかった社員は100人を超えた。
会社が大きくなってからもセンサー部署は好調だった。
いや、大きくなって資金が潤沢になったおかげで試作品にも予算がかけれるようになった。
会社の売り上げはどんどん増えていった。
俺のAI部門というと・・・・
はっきり言ってダメだった。
AI開発は競争が激しかった、沢山の会社が開発を行っていた、そんな中、とある日本の会社が画期的なAIを開発しシェアを伸ばして行った。
俺にも部下ができ、開発環境は整って行ったが、なかなか結果が出なかった。
正直焦っていた。
このままお荷物部署になるのはごめんだった。
俺は会社の業務をこなしながら個人で独自のプログラムの開発を始めた。
他の会社がやらないような、他のプログラマーが考えないような、画期的な思考を導入しようと思った。
AIは効率化が大切だ、どうやって無駄をなくすか?どうやって効率的に物事を進めるか?
その逆をやってやろうと思った。
AIじゃわからない負の部分。
そう、人間のネガティブな部分、非効率な部分ををAIに取り込みポジティブに変換してやろうと。
俺はそのAIを使って、あるプログラムをつくった。
「悪口人事評価」
まずは社員の全てのチャットやメールを全て取り込み分析にかけた。
そのやりとりから、人間関係をデータ化した。
本人が気づかない文体の違い、言い回しの違いで、その人間の本心をデータにした。
しかし、それだけでは人間の本音は探れなかった。
会社でのやりとりは所詮ビジネスだ。データが足りない。
そこで、社員のSNSの投稿などもすべて取り込むことにした。
そのことによって、人間の多面性をデータすることになり、社内の人間関係を視覚化することにした。
不倫関係、社内恋愛、パワハラ、セクハラ、上司・部下への不満、ありとあらゆる物が視覚化された。めちゃくちゃ面白かった。
『これは使える・・・』
正直そう思った、形式的に行われる社内アンケートよりよっぽど役に立つ。
かなり荒っぽいやり方をしたが、まあ実験と考えれば許される範囲だろう。
俺はこのプログラムを、内密で社長にプレゼンすることにした。
「めずらしいな、お前が直接プレゼンするなんて、というか久々だなこうやって2人だけで話をするのも」
社長にお願いして2人だけで話をさせてもらうことにした、たしかに会社が大きくなってから、社長とこうやってサシで話す機会はなくなっていた。
「はい、面白いプログラムが出来たんで、ぜひ社長に直接プレゼンしたくって」
「そうか、楽しみだな」
俺は社長に自分のパソコンを見せながら「悪口人事評価」のプレゼンを始めた。
社長は真剣な顔でプレゼンを聞いてくれていた。
俺は、ここぞとばかりに必死にプレゼンをした。
「なるほど・・・おもしろいな・・・これ、俺のパソコンでも見れるようにアカウントの追加は出来るのか?」
「はい!!もちろんです、すぐに追加しておきます」
「ありがとう、じゃあ、またな」
感触は良かった。
確かにこのプロトタイプはかなり強引な方法でデータを収集したが、あくまでプロトタイプ、実験だ。
しかし、このプログラムを改良すれば、商品化も可能だろう。
試作品、実験とは少しはやりすぎじゃなくてはいけない、コンセプトがしっかりしていれば大丈夫だ。社長もそのことには納得してくれたようだったし。
次の日、出社すると社長に呼び出された。
プログラムの件だろう。やっぱり社長はわかってくれたんだ、あのプログラムのすごさを。
社長はいつも言っていた「新しいことにチャレンジしろ」と、そうだ、いままでは無難にやりすぎていたんだ・・・自由に開発しても良いって言われていても、どこか会社に気を遣っていた。センサーの奴らみたいに、赤字を出しまくっても自分たちのやりたいことをやり続ける勇気がなかった。
「おう、おつかれさま。悪いな、いきなり呼び出して。」
「いえいえ、こちらこそお忙しい中」
「あのな、昨日の奴、じっくりみさせてもらったよ・・・」
「はい・・・・」
「うん・・・すごく面白かった・・・よく出来てた。」
「ほんとですか!?」
「ああ・・・・だけどな・・・すまんな、お前クビだ」
「え?」
「まずな・・・あのデータどうやって集めた?」
「え?あー、会社のシステムを経由して・・・」
「あのな・・・この時点でアウトなんだよ・・・今の時代な・・・コンプライアンスが厳しくなってるのわかるだろ?」
「ええ・・はい・・・でも、いやこのプログラムはあくまで実験で、実験するためにはある程度きちんとしたデータは必要です。そのために・・・会社のために社員のデータならギリギリ大丈夫じゃないですか?
あくまで実験ですよ。」
「うん・・まあな・・・俺もそう思ったよ、そこまでならな・・・でもお前、この社員のSNSのアカウントどうやって集めた?」
「え?・・・・・・・」
「まあ・・もう決めたことだからはっきり言うが、お前、これ犯罪だよ」
「・・・・いや・・・でも、AIにより精度の高いデータを出すためには・・・・・・」
「・・・その通りだと思うよ、でもな、超えちゃいけないラインってのがあるんだよ。わかかるだろ?」
「・・・はい・・・・」
「あと・・お前このプログラムちゃんと使ったか?」
「え?はいもちろん・・・・」
「おまえ、自分の評価みたか?」
「え?」
たしかに不倫や社内恋愛や面白いネタがいっぱいあって、自分どんな風にみられてるなんて気にしていなかった。というより・・・まあ、成果の上がらない部署の上司への愚痴くらいはあるだろう・・・
『いつも独り言を言いながらキーボードを打っていて気持ち悪い』
『風呂にはいってないのかな?くさい』
『自分は大したプログラマーじゃないくせに偉そうにしすぎ』
『ミニスカートを履いていくと視線がきつくて怖い』
『いっぱいコードを書けば良いと思ってるのが古い・・・非効率』
『センサーに嫉妬しているのが丸見え、俺たちに成果を求めすぎ』
『控えめに言って生理的に受け付けない』
『上司に向いてない、このままなら辞めたいです』
「・・・・・・・・・・・・」
「これがお前が作ったプログラムの、お前に対する周りの評価だ・・・・」
「・・・・・・・」
「このことを表沙汰にするつもりもないし、会社都合にしておく、な・・・」
「・・・・・はい」
会社都合の退職で失業保険で生活をしながら、再就職を探した。
AIが導入され、SEやプログラマの就職は厳しいものとなっていた、特に俺のように30をすぎた業界的にはおっさんの再就職・・ヘッドハンディングならともかく、クビになったような男にはどんな就職氷河期よりも厳しいものだった。
5社・・いや6社か・・・俺は都内での就職を諦めた。
地元に帰り、流石に実家に住むのは気まずかったので、地元の駅近に家を借り、車も買った。
・・・・俺は、地元での就職を舐めていた。
腐っても都内の有名会社で働いていたプログラマー、地方の会社なんて引く手数多だとおもっていた。しかし、地元の企業の就職活動も難航した。
そんな時、社員6人、小さな会社の求人に見つけた。
懐かしい感じがした、まだ会社が大きくなる前の時期を思い出す。
ベンチャーか・・・まあ、もう選り好みをしている状況じゃない、俺はその会社に求人に応募してみた。
ティリリーン
プッシュ通知が来た。
『あしたの15時面接可能ですか?』
5分前に応募した例のベンチャー会社からだった。
リアクションが早いな・・さすがベンチャーといったところか・・
しかし、プッシュの通知がくるような情報を入れたかな?
『はい、伺わせていただきます』
本当に背に腹は変えられない状況だ。若いベンチャー企業でも雇ってくれるなら万々歳だ・・・
面接は対人で行うということだった、きょうび・・・今時はネットでの面接のほうがポピュラーになってきているが。
まあ、地方の小さなDX系のベンチャー企業、6人しかいない社員。まあ採用は慎重になるだろう、実際にあって人柄を判断するのは当たり前かもしれないな。
面接の場所、その小さなベンチャー企業は駅から車で10分の場所にあった。
正直この田舎の街で駅から車で10分と言う立地は相当不便だ、いくら規模の小さい会社だとはいえそんな場所にはなかなかオフィスを借りない。
住所の場所についた。
まわりに何もない場所に古民家が一件立っていた。
『ああ、なるほどね・・・・意識高い系の感じか・・・』
純粋にそう思った。都会でなくあえて田舎の古民家をオシャレにリフォーム、最新のテクノロジーを業務にしながら田舎の自然も大事にする。
そんな鼻につくコンセプトがすでにオフィスから滲み出ている気がした。
いかん・・・あまりにも就職活動がうまくいってなくて心が荒んでいるな・・・
古民家前の駐車スペースに車を止めて、インターホンを鳴らした。
「すみません、面接にきた井澤ですが」
「はい、お待ちしておりました、どうぞ中に入ってください〜」
玄関をあけると二階から若者が1人降りてきた、Tシャツにデニム、20代中盤だろうか、爽やかな青年だった。
「どうも、高柳です、お忙しい中、こんなところまでありがとうございます。こちらの応接間にどうぞ」
彼が面接をしてくれるのだろうか・・・ということは・・・社長か?
まあ、前の会社も立ち上げた時はみんな20代だったか・・・
「どうもはじめまして、社長の高柳です。どうです?遠かったですか?」
「あっ・・いえ・・車で15分くらいですかね」
「車通勤はもちろんオッケーなんで、どうですかね?通えそうですか?」
「え?あ・・・まあ、そうですね・・・」
「交通費として燃料代はお出しできるので、毎月請求していただければ」
「あっはい・・・えーと・・・」
「あっそうですよね笑すみません、僕的にはもう井澤さんと一緒に仕事したいって思っているので、もちろん井澤さんがよければなんですけど」
「え?そうなんですか?それは大変ありがたいんですけど・・・・」
「そうですよね・・・えーと、お給料はお希望の金額プラス10%くらいでいかがですかね?えーと・・・やっていただきたいことは、前職と同じくAIの開発ということで」
「え?良いんですか?面接とかしなくても」
「ええ大丈夫ですよ、僕はもうきめていたんで、井澤さんがこの会社が気に入ってくれたらって感じです。そうですね・・・逆面接ですかね笑。なんで、なんでも聞いてください」
「・・・・じゃあ・・・遠慮なく・・・」
「はい、なんでも聞いてください。どんな質問をされてもこちら側の方針はかわらないので」
「では・・・・一応ホームページでは御社の業務内容はロボット関係のAIやセンサー開発とあったんですが、実際にはどのような物をつくっていらっしゃるのですか?」
「そうですね、下請けというか・・・我々のメインのクライアントは烏丸工業でして、ご存知かと思いますが、烏丸は純国産のドローンや、ロボットの開発をしています。そのAIプログラムやセンサーの部品供給というか、部分的に共同開発って感じですね」
「烏丸?すごいですね・・・ちょっと自信ないな・・・・」
「いえいえ、井澤さんならっていうか、井澤さんみたいな人材が必要なんですよ、うちには」
「・・・・もう一つ良いですか?・・・というか・・なんで僕が採用なんですか?」
「あはは、単調直入ですね。そうですね。失礼だとは思ったんですが、我々も井澤さんのことは独自に調べさせてもらいました。その情報をみて、もう即採用を決めました。我々がのぞんでいた人材だったので」
調べた?確か俺が応募して5分くらいでプッシュ通知がきたぞ?
まあ、その時はとりあえずってことで、その後調べたのか?なにをどうやって?
「すみません・・・えーと、問題がなければ、どういうところが・・・」
「『悪口人事評価』!あれは最高ですよ!ああいうプログラムは僕らには作れないですよ」
ん?なんで知ってるんだ?あんなもの絶対社外に漏らすはずがない・・・社長とつながってるのか?
「え・・と・・・なんであれを知っているんですか?」
「え?ああ・・・そうですね・・・まあ、井澤さんならわかってくれると思うから話しますけど・・・井澤さんが応募していただいて、僕らはすぐに井澤さんの前職の会社のシステムに侵入して、情報を閲覧させていただきました。いやぁ・・・あのプログラムは面白いです。
あと、社内のデータだけじゃなくて、SNSなどのパーソナルデータまでハッキングする技術。そして何より、そこから人間の本質を可視化するアイデア。僕らにはぜったいできないです」
え?なに?ハッキングしたのか?
まあ・・・人のことは言えないが犯罪じゃないか?
俺はこんなところで働いていいのか?
「えーと・・・それって・・犯罪じゃ・・・」
「そうですね・・・バレれば笑。でも、ある程度のリスクを負わなくては良い人材も得ることもできないし、我々の進化もないですからね笑」
やばい奴だな・・・でも・・・そうだな。おもしろい。
小さな会社でリスクを負ってチャレンジか・・・
今度は遠慮せずにやってみるか。
「ありがとうございます。こんな私でよければ是非一緒に働かせてください」
「ほんとですか?ありがとうございます!!!やったぁよかったぁ」
「ああ・そうだ・・井澤さんのことだから気づいているかもしれないですけど、僕アンドロイドです。
というか、この会社の社員は僕含め6名とも全員アンドロイド。
井澤さんは人間の初社員です」
「え?」
「あれ?気づいていなかったですか?それはそれでうれしいなぁ」
「えっと・・・すみません・・・アンドロイド?」
「ええ、そうですよ。僕らは烏丸製の純国産アンドロイドです」
「え?え?」
「さっき主なクライアントは烏丸っていいましたけど、僕らは出資元も烏丸です。アンドロイドだけで会社を経営したらどうなるか?という実験の為につくられた会社です。
第一フェーズは上手くいって、第二フェーズ、人間を採用して一緒に働いてみるってことになって求人を出していました」
「えーと・・・すみません・・・少し混乱しているのですが・・・」
「あはは、いやいや。烏丸のAIがここまでシェアのばしたのってなんでかわかります?」
「え?いや・・・」
「烏丸のAIは問題に対して100%の解決をしないんですよ、わざと。98%くらいですかね。2%くらい課題を残してプログラムをつくるんですよ」
「なんでですか?」
「僕らはバカなんですよ。100%解決することはできますよ、簡単に。でも、それだと僕らはそれ以上進化できないんです。」
「いや・・・人間は100%解決できないですよ」
「うん、そう。そうなんです。
でもだから人間は進化、進歩するんですよ。人間はそれをミスっていうかもしれないですけど・・・それは僕らにはほぼ起きない。」
「じゃあ・・僕はミスのために雇われるということですか?」
「ちがいます、ちがいます!!!説明するのむずかしいなぁ・・・井澤さんの作った『悪口人事評価』あれは、僕らには作れないんです。人間の気持ちをよくわかった優秀な人間じゃないと。僕らはあれを作った井澤さんと一緒に仕事をして、もっと進化したいんです。」
「・・・・ほめられてます?」
「ほめてますよ!!あれ?おかしいな笑。給与20%アップでどうですか?いやお金でつるわけじゃなくて、僕はそれくらい井澤さんと働きたいんですよ」
「あはは・・・いや・・・まだ混乱してますが・・・アンドロイドと仕事か・・おもしろいですね」
「ですよね?よかった。井澤さんも実験は好きでしょ?笑。
一緒に実験しましょうよ!!」
「そうですね・・はい。新ためてよろしくお願いします」
俺はアンドロイドに雇われることになった。
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