あなたに会いたくて

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あなたに会いたくて

「先生、ここにりんごをおきますね」 「あ。ああ」 「代金は後で!じゃ!」 八百屋の配達の少年の清志。そういうと忙しそうに出ていった。詩人が本業の鏑坂。探偵業で忙しいが、清志はそれ以上に忙しそうだった。 玄関に残されたりんご。秋の色だった。そんな彼の足元にはまた彼がやってきた。 「にゃーん」 「大将。お前はりんごなど食べないだろう?まったく目敏いことよ」 しかし、可愛い三毛猫。彼は抱き上げた。そんな秋の日、翌日に清志は顔を出した。 「時間があるなら、これを食べていきなさい」 「いいの」 「ああ。大家さんがくれたんだ」 大量のおはぎ。鏑坂は困っていた。清志は嬉しそうに箸を持って食べ出した。 「うわ?これは甘いね」 「だろう?今、お茶を淹れるから」 「ありがとう」 忙しい少年。鏑坂はせめて休憩させたかった。ここで鏑坂はなぜそんなに忙しいのか尋ねた。 「あのね。今度の週末に息子が帰ってくるって家がたくさん合ってさ」 「ほお」 「ご近所なんだよな」 息子の帰省。このため料理を振る舞うという母親の思い。このため清志は注文に追われていたとあんこが付いた頬で笑った。 「しかし。何か行事でもあるのか?」 「知りません……こっちは仕事が増えるのは良いことだし」 「そうだな。あ?お茶だぞ、熱いからな」 少年であるが仕事熱心な清志。まるで弟のような息子のような。そんな健気な彼を鏑坂は優しくもてなしていた。 しかし。週末、事件が起きた。 「先生!大変だ」 「……君はいつもそればかりだね」 「はあ、はあ」 急いでやってきた清志。近所の噂を話した。 「あのね。この近所で空き巣が入ったんだ。それも一軒じゃなくて。十三件だよ」 「ほお。大した腕前だね」 「感心してる場合じゃないよ!みんなうちのお客さんなんだ」 怒って口を尖らせる清志。鏑坂、まあまあと謝った。 「それは済まなかった。そうだよな。被害にあった方に失礼だった」 「だったら先生!どうにか犯人を捕まえて」 「それは、警察の仕事だろう」 彼はそう言って詩集を読んでいた。清志。ムッとした。 「あんなの無能だよ!僕の方が事件にあった家の事に詳しいんだもの」 「ははは。それは確かだ」 そこで。彼はスッと清志を見つめた。 「だったら。今回は君が推理したらどうかな」 「僕が?」 「ああ。まずはその被害者の共通点を探すんだ」 「共通点」 真顔の清志。鏑坂は詩集を選び直した。 「そう、他にはね。そんなに空き巣に入るなら。犯人は数人いるかもしれないね。そして、短時間の犯行ならば、下見とかしてるかもな」 「わかった!僕、調べてみます!」 「おいおい。気をつけて。あ」 行ってしまった清志。彼は呆気に取られていた。 ……まあ。その空き巣がこの辺りにいるわけないし。 危険性がないと思っている鏑坂。頼もしい少年に微笑んだ。そしてまた、翌日に清志は顔を出した。 「先生。わかったことがあります」 「別に。僕に報告せずとも良いぞ」 「言いたいんです!あのですね。空き巣に入られた家には先生の言う通り、共通点がありました」 少年の話。それはどの家も同じ歳の息子がいるということだった。 「というよりも。息子さん達、その同じ小学校の同じ組だったんです」 「ほお」 「それに!僕が週末に息子さんが帰ってくる家の話をしませんでしたか?」 「してたね。たくさんあったんだろう」 「でもですね!帰って来なかったんですよ」 興奮する清志。鏑坂はまた詩集を読んでいた手を止めた。 「もしかして。その息子さん達も同級生かい?」 「そうなんです!先生よくわかりましたね」 目がキラキラの清志。鏑坂。詩集をまた本を読み始めた。 「……へえ。すごいね」 「全然すごそうじゃないですけど。あのですね、先生」 「だったら。その知らせが問題だね?週末家に帰るという」 「そうなんですよ!!」 清志の話。それは彼らの家に帰省するというハガキがきたというもの。これに対し、「待っている」と返事をした家はすっぽかし。「用事があるのでその日は困難」と返事した家に空き巣が入ったということだった。 「しかもですね。その葉書はこれなんですけど。不思議なことに時間が経ったら文字が消えたんです」 「手品用のインクだろう……まあ、その返事の宛先の住所がわかっても犯人には辿り着かないね」 「ええ?どうすれば良いんですか?僕はてっきり先生は葉書の文字が見える方法を知っていると思っていたのに」 鏑坂。いよいよ少年を見つめた。 「僕は詩人だよ?そんな芸当は無理さ」 「では、どうしたらいいんですか」 必死の清志。しかし彼は仕事に戻らないとならない時間。鏑坂、ふうと本を閉じた。 「警察に任せておけば良い」 「でも!僕のお客さんが可哀想で」 「……まず、君は仕事だろう。それを疎かにしてはお客さんがお困りだよ」 「う。うん。じゃ」 清志。渋々帰っていった。その小さい背。鏑坂はため息でみていた。足元には大将がのっそりと遊びに来ていた。 「にゃーん」 「お前も清志が心配か……そうか、僕もだよ」 秋風が当たる窓。彼はそっと青空を見上げていた。
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