忠相さんとカフェデート

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忠相さんとカフェデート

渋るかと思った忠相さんは、意外にあっさりついてきた。 と言っても駅前のカフェで、人目もあり、別に変な真似が出来る訳でもないからそんなに警戒もされなかったんだろうけど。 何処にでもある大手のカフェチェーンの1つに入り、明るい照明の下、俺と忠相さんは初めて向かい合って座った。 不思議な気分だ。 電気を煌々とつけていても何処か薄暗い印象のあの喫茶店にいる時とは、忠相さんも少し雰囲気が違う。 忠相さんからも、俺は少し違って見えてるのかな。 俺を見る忠相さんの目がきらきらして見えるのも、多分この店の明るさのせい。 「今日はココアにしたんですね。」 「忠相さんは?」 「俺はアメリカンを…。」 実は俺も、苦いのは苦手で…、と僅かに口角を上げる忠相さん。 そうだったんだ。忠相さんも、実は苦いの苦手なんだ。だからアメリカンなのか。 いっそ甘いの頼んで良かったのに。 「でも俺、この図体でしょ。甘いの頼むと、変だろうから。」 少し寂しそうに言うのでキュンとした。 「お兄さんみたいに綺麗な人なら、甘いものも似合いますけど…。」 忠相さんが若干目を細めて俺を見ながら言う。 え、俺の事、綺麗だって思ってくれてるんだ…? 嬉しい、な…。 言われ慣れてる言葉なのに、忠相さんの口からそれが出ると心が震える。 やっぱ俺、この人に惹かれてるんだな。 駄目なんだけどな。 「弓月 斗和です。」 「え?弓月、さん?」 「弓月でも斗和でもどっちでも良いです。歳上…ですよね?俺、20歳です。」 「…なら、斗和くんで。 俺は笠井 忠相 (かさい ただすけ)です。 25だから、確かにいくつも歳上ですね。」 「忠相、さん…。」 やっと呼べるのか。 ずっと知ってたけど、呼べなかった名前。 笠井、忠相さん…。 5歳上なんだ。 道理で大人っぽい。 カッコいいなあ…。 少し長めの黒髪を掻きあげる忠相さんの仕草に胸がときめいてしまう。 コーヒーにミルクを入れて掻き回してるのもサマになる。 こんなΩ、いるんだ…。 ポーッとして見てたら、忠相さんが視線に気づいて恥ずかしそうに俯いた。 「そんな目で…見られると、何だか恥ずかしいです。」 「あっ、すいません、つい。…不快でしたか。」 「いえ、じゃなくて…なんか、すごく綺麗な目だから、照れる…。」 ずっきゅーん… な、何…この人…天然? 天然で人を落としに来てるの? 綺麗綺麗言われ過ぎて俺だって照れるよ…。 「男の子にこんな事言うと失礼なんだろうけど、俺…斗和くんみたいな綺麗な人って見た事なくて…。」 「…う、れしい、です…。」 「…気を悪くしないで欲しい。 俺、口下手で、あんまり喋るの上手くないんだ。 今日は、結構 頑張ってて…。」 「大丈夫、です。 気を悪くなんて、全然。」 確かに…初めてだよな、こんなに話してるの見るの。 …もしかして、俺の為に頑張ってくれてんの? そう思ったらちょっと顔が熱くなって来ちゃったよ。 嬉しいような恥ずかしいような…。 諦めなきゃいけない人なのに、これじゃ好きになってしまう一方だ。 困ったな。 未練がましく誘ったのが仇となったかもしんない。 悶々としてたら忠相さんがポツリと言った。 「最近、顔見ないから少し気になってたんだ。 忙しいのかなって…。 いや、ごめんね、余計な事だった。」 途中で我に返ったらしく、慌ててたけど、それって俺の事が気になってるって…、そういう事なんだろうか? いや、違うか。 よく来てた常連が姿を見せなくなったら誰でも気にするよな。 都合の良い解釈をしちゃ駄目だ、と己を律する俺、偉い。 「…まあ。忙しい、と言うか…。」 俺は少し考えた。 …思ったんだけど、今日は偶然会っただけなんだから、今日を限りに二度と会えないかもしれないんだよな。 俺さえ、あの店に行かなきゃ。 でもそれなら、いっそ聞きたい事を聞いちゃってスッキリしても、罰は当たらないんじゃなかろうか。 「あの、忠相さん。」 「はい。」 「忠相さんって、恋人…というか…将来を誓ったというか、心に決めた人がいるんですか?」 遂に聞いてしまった。 俺が店に行かなくなった、一番引っかかってる事を。
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