お願いします (弓月)

1/1
前へ
/22ページ
次へ

お願いします (弓月)

「心に決めた…人?」 忠相さんはポカンと口を半開きにして俺を見た。 …ン? 何、その反応? 「前に、お店に伺った時に…入る前に、その…聞こえてしまって…。」 「え?…あ、あー…あの時ですか。あの時の人は、ちょっと執拗くて…。」 「…そうなんですか。」 ズキッとした。 そっか、執拗いのはそりゃ嫌われるよな。 でも何だか、忠相さんに好意を持って告白して玉砕した女性達に自分の姿が重なるようで…。 でも、誰の気持ちも受け取らず、キッパリ断ってる姿に救われもしてる訳で…。 矛盾してるな、と自分でも思う。 「守りたい人がいるから、って聞こえたんで、恋人なのかなって。」 ようやくそこ迄言ったけど、声は震えてなかっただろうか。 見込みの無い、恋になりかけのこの気持ちを断ち切りたいんだ。 辛くてもこの際もうハッキリ聞いてしまいたい。 沈黙が流れて、店内に流れる曲とざわめきがやけに大きく耳に入ってくる。 数秒の後、忠相さんが口を開いた。 「俺、Ωなんですよね。」 「…は…。」 「気づいてました?」 「…多分、そうかな、とは。」 「ですよね。隠し切れる事でもないし。」 忠相さんは少し苦笑しながら話す。 「こんな体に顔で、何処がΩって感じなんですけど、そうなんですよ。 結構コンプレックスで。 未だに相手もいません。」 「えっ?忠相さんみたいな人に相手がいない?」 嘘だぁ…。 Ωってのがわからなきゃあれだけ女の子寄って来てるのに。 けれど、忠相さんはその直後、さらりと言った。 「俺、どうやら、女の子、ダメで…。」 「!!?!!」 …今、なんて言った? 女、ダメ? 「学生時代に男女共に付き合ってみた事あるんだけど、どちらともダメで。 女の子は、俺が役に立たないし、男相手だと、俺は良くても相手が勃たなくて。」 「…そ、それはまた…。」 「だから、何となく…今迄一人で。」 「……。」 「まあ、俺みたいなΩは苦労します。 でも、ウチの近所に住んでる10歳下の幼馴染みの子は逆で、本当にthe・Ωって感じのΩだから、男やαが寄って来すぎて嫌な思いばっかしてて。」 「10歳下…15でそれは、辛いですね。」 「うん。年の離れた妹みたいな子だから、せめてその子が高校卒業して彼氏と番になる迄は、周り皆でガードしようって…。」 「へえ、なるほど、皆で……。…ん?」 ……皆でって、みんなで? みんな、って、つまり Always?? 「近所の幼馴染み達の妹みたいな子だから。 同じ歳の彼氏はいるんだけど、親が厳しくて高校から少し遠くの学校にやられちゃって。だから俺達が…」 「ちょ、ちょーっと待って、待って下さい。つまり、それはえっと… 忠相さんの恋人とかじゃなくて、単なる近所の彼氏持ちの幼馴染みの子を皆で守ってる、と…。」 「うん、そう。」 「妹…」 「みたいな?」 「…忠相さんは、性的対象は、男性?」 「はい。」 「……そ、ですか…。」 ……うん、なるほど。 「因みになんですが、」 「はい?」 「歳下の男は、どうですか?」 「歳下…?まあ、±05歳くらいは…?」 「お付き合いして下さい。」 「えっ?」 「好きです。お付き合いして下さい。俺αです。 番を前提に、お付き合いして下さい。」 いきなり告白する俺、面食らう忠相さん、尚も押す俺、戸惑いを隠せない忠相さん。 カオスだ。 けれど、普段どんな告白にもクールな表情を崩さない忠相さんの、頬と耳が紅潮しているのを俺は見た。 これは絶対脈がある。 だから俺は忠相さんの手を取って握り、しっかり目を見てもう一度押した。 「好きです。 貴方に、思う人がいると思って身を引こうと思いました。 でも、違うなら、いないなら俺にして下さい。 何ならお試しで付き合ってみて、俺を知って欲しい。 俺、絶対貴方を大事にする自信があります。」 忠相さんは茹でダコのように真っ赤になって、俺を見つめたまま黙ってしまった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

530人が本棚に入れています
本棚に追加