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「…………」
目を開けて、白い眩しさが視界を覆う。
無意識のうちに動かした手には、コツンと何か固いものが当たった。
目にしたのは自分の指先に触れるキャンバスの角。床の上に散らばったうちの一つ。
彼のアトリエは天井が高い。他の部屋と高さは同じなのに、どうしてかこの中は広く感じる。
あちこちに絵が落っこちている部屋は、ぐちゃぐちゃしていても自由だった。
「起きた?」
「……すみません。寝てましたね俺」
「それはいいけど。ああ、ダメだ動くな。そのまま」
「はい……。すみません」
彼のための置き物になりきろうと、この前決意したばかりなのに。
約束の時間になって彼の家を訪れた。
彼は俺を部屋に招き入れると、足の踏み場に困る状態になっていたアトリエの床に、バサリと白いシーツを広げた。
適当に皺を伸ばし、俺を振り返ると一言、ここに寝ろと。
いつもは椅子や一人掛けのソファーに大人しく座っているのが仕事だった。
床の上に敷いたシーツの上に、寝転べと言う指示は初めてだった。
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