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他人の部屋で腹を上にして寝転がるのは緊張する。
しかしそれが雇い主の指示であれば従うのが当然のこと。
そうして少し硬くなりつつも、指示に従い仰向けになった。時々は彼に言われて、横を向いたり前を見たり。
うつ伏せ気味に、顎は腕の上に乗せて、窓の外を見るように。そう言われた辺りまでははっきりとした記憶がある。
床から見ると高い位置にある腰窓から外の景色を眺め、壁に阻まれたその向こうには青い空が広がっているのだとぼんやり感じた。
ここでもまた彼のひとり言はいつものように繰り広げられた。シーツの上に身を投げ出しながら耳にする声は心地よい。
それがいつの間にか子守歌代わりになってしまっていたようだ。
どれだけ意識を飛ばしていたかは時計がないので分からないが、人の家で、しかも雇い主の部屋で、寝落ちていたのはすぐに理解した。
「手に顔乗っけって。そう……もうちょっとだけ傾けて。ほっぺたくっ付ける感じ……うん、そう。そのまま」
今度はしっかりまぶたを上げておく。
手の甲の上にぺたんと頬をくっつけ、指示されて再び窓の外を見た。
男の俺をモデルにさせるより、公園を通るちゃんとした美人くらいならいくらでもいただろうに。
見返りとして渡される、少々大きすぎる金額と、彼自身の見た目を使えばモデルの獲得も難しくはないはず。
なのに彼は俺を描く。まともな会話をする気もないし、俺の意見を求めることもない。
けれど俺でなかったら、一枚も描けていないと言う。
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