天使の一般論

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「寒くて膨らんでるスズメは可愛い」 「そうですか……?」 「羽毛がこう、バフッとしてて」 「あー」 「ハトでもいいけどな。あいつらもスゲエ膨らむ。この前ベランダの手すりでパンパンになってた。二羽」 「きっとツガイですね」 「ハトってのはどうしてああもアホみてえな鳴き方なんだか」 「さあ。あれがハトにとってしっくり来る鳴き方なんじゃないんですか」  スズメは小鳥の代表のように高い声でかわいく鳴くし、ハトの鳴き声は気の抜けた炭酸みたいでむしろ安定感がある。  鳴き声の美しさを競わせるのであれば、日本なら第一にウグイスの名が上がるのだろうが、俺の個人的な好みで言うなら美声の王者は絶対にオオルリだ。これだけは譲れない。  ここまで思って、しかし言いはしない。彼は俺の答えも感想も個人的意見も求めてはいない。  太陽の下を歩いてきた猫についての感想にはピンとこなくて、雨の日の湿った匂いは俺もこの人と同様に嫌いで、鳥の姿形や鳴き声なんて心からどうでもいいような話が実は自分も好きだったとしても、俺の主観を求めていない彼にそれを言ったところでどうにもならない。それくらい良く分かっている。  彼にとって俺という存在はただそこに在ればいいだけの物。  一つの物体にすぎず、無機物よりかは温かみのある、単なる観察対象だ。  画用紙に当てる鉛筆の先に丁寧な線を描かせるため、モデルとしてのこの姿を何度も何度も目に映すだけ。  人間は物体に感情を求めない。彼と俺の関係は明白。  俺はただ、動かずにいればいい。
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