天使の一般論

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***  彼のことはしばしば見かけた。  人の目を惹く容姿をしていながら本人にその自覚はないようで、駅前にある公園の中を不審者のようにさ迷い歩く。歩き回っていない時でも、呆然と佇んでいる姿はどうにもこうにも目立っていた。  ここ一週間ほどは毎日ここをフラフラしている。  雰囲気的な清潔感と見目の良さが幸いしてか、辛うじて通報される事態になったことはないようだったが、二人組の女子高生はクスクスと遠巻きに笑い合ながら彼の様子を窺っている。子連れの女性は興味深げにその目をチラチラ彼に向けつつも、まだまだ小さい我が子の手を引くとそそくさ足を動かしていった。  いつもどこを見ているのか謎。そこで何をしているのか謎。何を目的に公園内をフラフラと散策し続けるのか謎。  今もまたどういう意味があって、中央の噴水を凝視しているのか全くもって謎だった。  平日の日暮れ前から仕事もせずに不審行動を取っている彼は、どこもかしこも正体不明のおかしな人物でしかなかった。  彼が通報されたことがないと思う理由も、それはただ単に俺がその現場に遭遇した事がないというだけで、実際がどうなのかは定かではない。一度くらいはあるのかもしれない。  広い公園の中を通るたびに見かける彼を俺はそれまで、無職でやる事のない人か、もしくは相当ヤバイ人か、そのどちらかだろうと予想はしていたが結局他人事でしかなかった。  みすぼらしくはないが派手でもなく、かと言って汚い訳でもない。  まともな身形をした成人男性が公園内の池の前に立ち、水の中で泳いでいる小魚か何かを見つめていたのだろう。  公園の外周りを歩くよりもその中を突っ切ってしまった方が歩く距離を短縮できるため俺はここを使っていたが、その日もまたいつものように彼の近くを通り過ぎようとした。
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