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彼はようやくマフラーを受け取り、さすがにこれは巻かないだろうと内心でヒヤヒヤしながら見守っていたが、変な人も馬鹿ではなかったようだ。
濡れたマフラーを不快そうに見下げると、いささか体から離して持った。
そして今度は俺をじっと凝視し始めた。池にいた小魚を見ていた時と、同じような顔をして。
「……えっとじゃあ、俺はこれで」
「キミ学生?」
「え?」
マフラーを持っていない手が、こっちにスッと伸ばされる。濡れていない温かなその手は、俺の手首をガシッと掴んだ。
「バイトしないか」
「……は?」
「バイト。モデルの」
「もでる……え?」
「とりあえず一緒に来て」
変な人は絵描きだった。
それがきっかけで俺の時間は、彼に買われることとなった。
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