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確信
俺は店を出て直ぐに、「振り込め詐欺犯かも知れない人物と一緒にいます」と警察へ電話した。
まあ、最初から分かっていた訳じゃ無いけど、彼女からメールが届いた時に、お金を要求してきたら9分9厘詐欺だろうから気を付けないとと身構えていた。彼女があまりに美人だったから残りの1%を期待しちゃったけど、そんな甘い話は無かったな。実は、何かのテレビ番組でやってたんだが、愛媛って名字の人は居ないらしいんだ。彼女は可愛い響きにする為に、自然に『ひめ』と入る偽名にしたのか偶然なのかは分からないが、存在しない名字を選択してしまったのが最大のミスだったようだ。
問題は、俺の住所やメアド、それに、俺がアルコール性認知症患者だと知っていた事……。恐らく、俺の情報を彼女へ売った医療関係者がいる。まあ今の時代、それぐらいは日常茶飯事なのかも知れない。引っ越しもしたし、当分はややこしい話も無いだろう。とにかく、被害に遭わなかった事が1番だ。
そう自分に言い聞かせ、その後、彼女から入ってきた催促メールを読む俺の頬には、喜怒哀楽の、どの感情か自分でも分からない一筋の涙が頬を伝っていた。
程無くして、警察が喫茶店に到着し、彼女は逮捕され、俺も簡単な事情聴取を受けた。
翌日……
『特殊詐欺犯、若月美鈴容疑者を逮捕! 自称、元看護師だと言う彼女は、未来の自分からのメールと称して被害者を騙し、大金を振り込ませるというSF要素を取り入れた新しい劇場型の詐欺を1人で行っていた模様です。主に認知症患者を狙った犯行のようで、被害総額は1億円以上と言われて……』ブツッ
俺は気分が悪くなり、テレビを消した。まだ、失恋の後遺症が少しあるようだ。
今日は新しい職場仕事の初日。少し緊張しながら会社へ向かおうと部屋を出ると、ビュウビュウと冷たい風が吹き付ける。徒歩10分で会社に到着。
会社正門近くの大樹には、冬でも枯れ落ちず1枚だけ残った葉っぱがヒラヒラと揺られていた。俺は心の中で、頑張れ~とエールを送ったが、そんな願いとは裏腹に、強風により葉っぱは、あっけなく飛ばされていく。空を舞う葉っぱの先にはスーツ姿の30歳前後の女性が歩いている。たしか、面接の時に居た、この会社の事務員だ。俺は元気よく挨拶する。
「おはようございます。今日からお世話になる工藤です」
さあ、第2の人生の幕開けだ!
了
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