未来からのメール

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未来からのメール

嘘つけよ、と思ったのだが、昴君と書いてある。メールを送った相手が俺を工藤昴だと分かっているという事は、一般的な詐欺メールでは無いし、(あなが)ち嘘だとも決め付けられない。 『まあ、信じられないかも知れないけど、取り敢えず返信してくれよ。詐欺だった場合はアドレスを変えないといけないが、まあ、それぐらいは良いだろ?』 確かに、未来の俺? の言う通りだ。この後ややこしくなるようなら、アドレスを変えてしまえば良い。 とにかく、件名の『残念。ハズレです』が少しだけ俺っぽい事と、昴って名前を知っていた事の2点で僅かながら信用している。ただ、今のところは友人のイタズラが濃厚だと思いながら返信する。 『未来の俺へ、何か証明出来る事ってあるか?』 俺は簡単な文章で返信した。詐欺グループであれば、返信後、即、テンプレートの返事があるのかと思ったが、5分後ぐらいに返事がくる。 『今、テレビ見れるか? 中山10レース、未来ではコオリノジョウオウが勝っている。もし、1着になったら信用してくれ』 俺は直ぐにテレビを点け、競馬チャンネルに合わせる。最近、馬券を買わなくなってきたが、ダービーや有馬記念は友人に誘われれば買う事もあるので、多少の知識はある。 テレビを見ながらスマホでコオリノジョウオウを調べた。どうやら、最近はずっと凡走続きのようで、今日は16頭立ての10番人気、単勝オッズは40倍のようだ。 こんな馬が勝つ訳ない。もし勝ったなら、未来からメールしているなんていう非科学的な事を信じても良いだろう。 ファンファーレが鳴り響き、レースが始まった瞬間、俺は全身に鳥肌が立った。コオリノジョウオウが好スタートを決め、先頭に躍り出たのだ。コオリノジョウオウは逃げ馬では無い。恐らく、最近の凡走続きで騎手が思い切った作戦を取ったのだろう。後続を突き放し、10馬身以上の大逃げだ。 嘘だろ……。 まさかの展開に頭が追い付かない。最終コーナーを回っても大差のままで後続馬の騎手達も焦っているのでは無いだろうか。 俺はコオリノジョウオウに逃げ切って欲しいという気持ちと、現実を認めたくないから負けろ、という葛藤で訳の分からない感情になっていた。 その時、スマホが震えたのに気付いたが、今は、それどころでは無い。
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