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未来の彼女はギャル?
喫茶店が見えた時、入り口近くに若いギャルが居て、こっちを見ているのに気が付いた。
彼女は遠目から俺に会釈をした後、遠慮気味に右手を振っていて、かなり可愛く見える。少し赤みを帯びた巻き髪のロングヘアー。冬だというのにロングコートの下からは生足が見える。
あのギャルがメールの彼女なのだろうか? 20代…… いや、恐らく、若く見える30代前半だろう。
「こんにちは。工藤さんですよね」
彼女は営業スマイルで話し掛けてきた。メールの感じだと、こんなギャルとは思っていなかったので少し動揺した。
「あ、はい」
「中で、お茶しながら話しましょうか。奢りますよ」
「いえいえ、若い女性に出してもらう訳には……」
「大丈夫ですよ。お金には余裕あるんで」
彼女は愛想よく笑いながら言った。
俺達は席に着くとコーヒーと軽食の注文をし、自分達の未来からのメールという不思議な状況を話し合った。彼女は現状をすっかり信じきっているようで、目の前のおじさんが未来の恋人だという事にも抵抗は無いようだ。
「何か給料の良いお仕事をなさってるんですか?」
俺は彼女が最初に言った、お金には余裕があるってのが少し引っ掛かっていたので、遠慮もなく聞いてみた。
「いえ、そこまでじゃないんですけど、社長秘書をしてまして……」
「えっ?」
「いえいえ、小さな会社なんですけどね」
「へ~……凄いですね」
「いつも大金を扱うので麻痺してるってのもあるんですけど……」
すると、彼女は徐に自分の鞄の中身を俺に見せてきた。俺は目に飛び込んできた状況が信じられず息を飲んだ。帯の巻かれた1万円札の束が5本程見えたのだ。
「現金で直ぐに支払いをしないとダメな場合があるので……」
「そうなんですか……結構怖いですね」
「工藤さんは現金派ですか?」
「いえいえ、現金は殆ど持たないですね」
「貯金とか結構してます? 良い会社に勤められてたって聞きましたけど……あ、一応、これから彼氏になるかも知れないですからね」
彼女はニッコリ微笑んで言った。
「いやあ、色々あって退職しちゃいまして……。退職金を食い潰しているところです。貯金は愛媛さんが今持っているぐらいですかね」
実のところ、1千万円ぐらい貯金はあるが控え目に言った。
その後、俺達は何気無い会話を1時間程した後、今から予定が入っていると彼女が言ったので席を立った。俺が素早く会計票を掴むと、それに気付いて彼女は言う。
「あっ、払いますよ」
「いえいえ、若い女性に払わせたら今晩寝られなくなりますから」
「分かりました。御馳走になります」
会計を済まし店を出ると、彼女が再度「御馳走様でした」と言いながら会釈をした後に「明日も会えますか?」と艶っぽく聞いてきた。ドキッとさせられたが、バレないよう平静を装って返す。
「えと……明日は予定が入っていまして……。明後日はどうですか?」
「はい、大丈夫です。では、同じ時間、この店待ち合わせで良いですか?」
「分かりました」
彼女は真っ赤なアルファロメオに乗り込むと、運転席のウインドウを開け、笑顔で手を振った後、エンジンを吹かして走り去った。基本、電車移動の俺にとって、左ハンドルの高級車を運転する彼女は物凄く格好良く見えた。
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