魔女と呼ばれた彼女

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魔女と呼ばれた彼女

彼女が魔女と呼ばれ始めたのはいつのことだったろうか。 人間と変わらぬ姿をしているものの、歳もとらず、傷もつかぬその体。 己自身それを異様であると気付いて、他者から隠れ住むようになったころだろうか。 しかし彼女にとって、そんなことはどうでもよかった。 時がいくつも流れ、自分がどう呼ばれているのかも、どう見られているのかも気にならなくなっていた。 それを気にするべきだったと後悔したのは、天災が続いたある年だった。 彼女のもとに、供物として送られてきたものがあった。 それは、子供。 口から吹いた泡が乾き、口の周りが白くなっており、所々赤黒くもなっているのは血が混じっていたからだろう。 手足は冷え、痙攣を起こしている。 打撲傷などはないが、首などには掻きむしった痕。 体は痩せ細っており、左手には手紙を、右手には何かを握りしめている。 今にも死んでしまいそうな少年が、彼女の棲家の前に横たわっていた。 握りしめられた右手を何とか開くと、赤い小さな実のような物が潰されていた。 「……ドクウツキの実か。」 彼女はその実の匂いを嗅ぐとポツリと呟いた。 ドクウツキはこの辺り一帯ではどこにでもある植物で、小さく赤いその実は少し甘い。 しかし毒性が強く、子供であればその実を数粒食べただけで死んでしまう。 この少年は度重なる天災の末の飢餓によりドクウツキの実を口にしてしまったのだろう。
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