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3,クロノス(時の神)
「これは何だ!?」
完全食の闇の中、昼なお暗い森の中を勘を頼りに駆け抜けたマナトは、森が途切れた向こうに広がる原野を横断する光の帯を見て、叫び声を上げた。
マナトはこれまで何度か森に行ったことはあったが、魔物が出るとか禁断の森とか小さい頃からさんざんおどかされて潜在意識に恐怖が溜まっていることもあり、森の入り口辺りで引き返した。
彼は決して臆病ではないが、森には根源的な恐怖心を煽り立てる何かがあった。
マナトがその恐怖を克服したのは、完全食という異例な現象が生み出した闇のおかげだった。完全食の闇には、森の普段の闇を打ち負かす霊力があるような気がした。
それに森の中を走っているとき、マナトは自分の血の中で祭司から受け継いだ遺伝子が覚醒するのを感じた。
二の腕の太陽の刻印は、彼が日輪の神に選ばれし者だと物語っていた。だからこそ、危険を冒して森の向こうの荒野に輝く光の正体を突き止めることは自分の使命なのだと、マナトは決意した。
完全食の闇の中で、乳白色の光の帯はひと際神々しく輝いていた。夜空のミルキーウェイのようだと、マナトは思った。
光の帯から時折、燃え上がる炎のように火花が舞い上がった。それは祭壇の前で行われている祈りと関連があるようだが、祈りの強度によるのかかつてないほど勢いがあった。
果たして、この光の帯と火花は何なのか、知ることができるのだろうか。
マナトは光の帯から5メートルくらい離れていたが、それ以上近付く勇気はさすがになかった。
熱やガスの類が放射されている様子はなく、何の音もしないのが不思議だった。どこから始まってどこへ行きつくのか、いつからあるのか、そういったことも不明だった。
孤立した小さな村から外へ出ることなく生活している自分たちの世界の狭さを、マナトはつくづく思い知らされた。
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