4,アナスタシス

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マナトが祭壇前の祈りの場に戻った時、太陽はすでに復活していて、完全食が悪夢であったかのように明るい日差しが降り注いでいた。 村人たちは揃って安堵の表情で家や仕事の場へ戻っていき、祭司だけがマナトの帰りを待っていたようにそこに居た。 祭司は新参者でも見るような眼差しで、マナトを迎えた。マナトは開口一番、森の向こうでの自分の体験を語った。 光の帯の前でクフスとの交信をして終えた後、マナトは一種のトランス状態になり、その中で別の時空に生きそこからはみ出したまどかという女性と話をした。 マナトは神の木の化身となり、この稀有な出会いに報いるためにもぜひ生きて欲しいと説得した。 「あれは夢だったんでしょうか」 「いや、おまえは神の木となって実際に他の時代の人間とコンタクトしたのだ」 神の木と同じ太陽の印を持って生まれた神の木の申し子。 マナトは自分の体内を巡る血の中に、神の木の魂が宿るのを感じた。そして自分の血の流れが、あの光の帯と共鳴しているのを。 僕はこれから幾度もあの光の帯の所へ行き、他の時間の人間と交信するだろう。 神の木としての僕と遭遇して救われる者もいるかもしれない。 完璧な姿で空に輝く太陽が、マナトの決意に満ちた表情を照らしていた。 屹立する神の木の前に佇む少年は、太陽に立派な影を授けられて、未来の予言者、祭司となることを約束されていた。 (了)
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