おめでとう、おめでとう。

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 *** 「……は?」  結婚式場で。血相を変えて控室に飛び込んできた、美加子。私は彼女から言われた言葉が信じられず、完全に固まっていた。 「み、美加子?何意味不明なこと言ってんの?」 「それはこっちの台詞よ!」  友人代表として、結婚式のスピーチも任されている美加子。私と敬一郎さんの晴れの日を、誰より喜んでいるはずの彼女が、このようなウソをつく理由は確かになかった。そう。 「なんで……なんで、座席表に……苺子の名前があんのよ!」  彼女の手に握られてるのは、結婚式の招待状。手違いで、座席表は何度も変更になっていた。最終的に決まったものが発送できたのは、ギリギリのギリギリになってからのことになってしまっていたのだ。  ゆえに、彼女も間違いだと思っていたということらしい。実際にテーブルに、苺子の名札が置かれているのを見るまでは。 「あの子が来るはずないでしょ、だって……!」 「意味わかんないよ美加子!わ、私ちゃんと、六月の半ばに苺子から電話貰ったんだよ!?結婚式行くって、おめでとうって……!」  混乱のまま、私は叫ぶ。周囲の、他の招待客たちが何事かとざわつくのも気に留めず。 「あるわけないじゃん!苺子が……ご、五月に自殺してたなんて、そんなこと!」  自分は確かに、電話で苺子と話をした。  あれは間違いなく苺子の声だった、彼女しか知らない話もたくさんした。それに。  あるわけがないだろう。招待状が送られてきてすぐ、苺子が電車に飛び込んだなんて。しかも、今でも敬一郎さんのことが好きで、私や美加子のことを恨み続けていたなんて遺書が出てくるなんて。それを見た彼女の家族が、苺子の死を自分達に知らせないままにしていたなんて。 ――じゃあ、あれは?  背筋が凍る、想いがした。 ――おめでとう、と言ってくれた、あの電話は誰だったっていうの?誰が、どんな気持ちで、私に?  ああ。  彼女は確かに言ったのだ――今日この結婚式場に、祝いに来る、と。 「みらちゃん」  刹那。昼間にも関わらず、私の目の前は真っ暗になった。  すぐ真後ろから、濁った声が。 「おめでとう」  振り返った私が、見たものは。
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