おめでとう、おめでとう。

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 私も、そして美加子も。苺子が敬一郎さんのことが好きだという事実にまったく気づいていなかったのである。それも、中学一年生の頃からずっと想いを胸に秘め続けていたということも。  気づいたのは。敬一郎さんと付き合い始めたと教室で報告したその時だった。 『わあああ!おっめでとう未羅!あんたもやるじゃーん!ね、苺子!』  喜んで拍手してくれた美加子に対して、苺子は完全にその場で固まっていたのだった。そして。 『あ、そ、その……お、おめで、とう……』  動揺しきった、泣きそうな顔。それを見て、私と美加子はやっと知ったのだった。自分たちが悪意もなく、どれほど残酷なことをしてしまったのかということに。  そのあと美加子が話を聴いたところ、やはり苺子は昔から敬一郎さんに片思いをしていたということが発覚し。彼女は“しばらく一人にしておいて”と言って自分達から距離を置いてしまったのだった。  そして、そのまま。  無視をされるわけでもないけれど、それでいて仲直りがちゃんとできたわけでもなく。気まずい関係のまま卒業して、お互いそのままになってしまったのである。メールや電話などの連絡先も知ってはいる。けれど、どうしてもこちらから連絡する勇気が出なかったのだった。――卒業した頃は、メールの返事は来ても、時間をかけてそっけない一言が来る程度になってしまっていたから。 『もう十五年も過ぎたし、苺子も新しい恋人ができててもおかしくないとは思う。あたし達が思っているよりずっと早く吹っ切ってるかもしれない。……むしろあんたも、それ期待してたんでしょ?あたしもそうだったらいいなとは思うよ』  でもね、と美加子は続けた。 『場合によっては、絶縁も覚悟しておきなさいよ。……悪意がなかったからっていいってもんじゃない。傷つけたのは事実なんだからね』  言われなくても、わかっている。私は受話器を握りしめ、唇をかみしめたのだった。  身勝手なのかもしれなかった。それでも、自分にとって苺子が大切な友人であったのは事実。仲直りしたい、と思うことの何がいけないのだろう。  そして彼女に酷いことをしてしまったからこそ。その後の結果を、きちんと報告する義務があると思っただけなのだ。それが、自分なりの誠意の見せ方だと。 ――絶縁なんて、そんなこと、ないよね?  そう思いながらも、私は不安を隠せずにいた。  少なくともこの段階では、苺子からはなんのリアクションも返っては来ていなかったから。
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