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招待状の返送は、なかった。
しかし結婚式の一か月前になって、突然私の家の電話が鳴ったのである。懐かしい番号の表示。慌てて受話器に飛びついた私の耳に聞こえてきたのは、想像していたよりずっと明るい女性の声だった。
『久し振り、未羅ちゃん』
「い、苺子!?苺子なの!?」
『うん。ごめんね、ずっとまともに連絡しなくて。結婚式の招待状見たよ、結婚おめでとう』
「あ、ありがとう!」
想像していた以上に、舞い上がっている自分がいた。苺子の声は、自分を責めるようなものではない。結婚おめでとうも言ってくれた。ちゃんと自分と敬一郎さんを祝福してくれている――自分達の関係を認めてくれている、と。
安堵と同時に、気づかされた。自分はずっと、苺子に負い目を感じていたということに。彼女にはっきりと、許して貰う時を待っていたことに。
「ごめん……ごめんね苺子。中学の時は、その……!あ、あの、だからこそ、敬一郎さんとちゃんと幸せになったんだって伝えたかったというか、それで……!」
しどろもどろになって言えば、もういいよお、とかつてと変わらない間延びした声が響く。
『それで、七月十五日だよね?招待状、返送できなくてごめん。でも、できれば私も結婚式でお祝いしたくて……行ってもいいかな、未羅?』
「い、いいよ!大歓迎!」
嬉しい。受話器を握る手に力が籠る。
「じゃあ、苺子の席も用意しとく!待ってて!久しぶりに会えるの、楽しみにしてるね!」
中学の時からの、長い長い確執。明るい声と共に、全てのわだかまりが解けていくような気がした。
また、苺子と笑い会える日がくる。あの苺子に、敬一郎さんとの結婚をお祝いして貰える。私はそれだけで、目の前がキラキラと輝いて見えるような心地となっていたのだった。
そう。
そのはず、だったのだ。
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