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「駄目だ。 おれにはどっちがどっちだったかなんて想像できない」
「…は?」
「涼も涼だよ! 浩太とそういう仲だって、初めっから教えてくれれば…失恋なんかしなかったのに」
勝手にどっちが受けで攻めなのかを妄想していた圭介だったが、さすがに教室で『失恋』というワードを大声で言えずに小声で呟く。
「はっせー…」
圭介のため息ではじめてその顔を見た涼がその名を呼ぶと、ゲイだと自覚しているにも関わらず、見抜けなかったカップルに向かって苦い笑顔を見せた。
「ごめん。 これでも結構痛手なんだ。…悪いけど、落ち着くまでおれのことは放っておいてくれ。…悪いと思うなら、尚更な」
「分かった」
眉尻を下げ、何も言えずにいる涼とは対照的にはきはきとした言葉遣いで圭介の言葉に答える浩太を見て目を見張ったが、圭介はすぐに苦笑するとひらひらと手を振り、二人の傍を離れた。
「…いいのかな?」
「だから言った通りでしょ? 涼は考えすぎ」
圭介に対して嘘をついた結果になったことを後悔して縮こまっていた涼を拍子抜けさせるほど、圭介が見せた態度は実にライトなものだった。
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