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「好きだよ」
そう言ってもらえた日から、私は何を勘違いしたのかその人はずっと私を大事に大事に愛してくれると信じていた。
そんなことあるはずがないのに。
それでも、私の指には大きすぎる指輪を『絶対につけれるように』とただでさえ貯金がないのに無理して買って、今にも落としてしまいそうなほど震えさせながら私の指にそっと通して唇を奪ってきたから。
こんな情熱的な愛され方をしたことのない私はその唇の虜になってしまうのは仕方がなかったとも言えたんだ。
でも、結局その愛はその一瞬が最高潮だったと思い知らされた。
一度じゃない、何度も何度も。
「今日のご飯は何?」
笑顔で帰ってきた彼の顔はいつだって可愛かった。整った、とは言えなくても俗にいうイケメンの部類に入る彼が笑う時はいつだって満面の笑みになるのが可愛くてたまらなく愛おしかった。顔にかかるほどでもない黒髪がワックスで頭頂部で立っているのになんだかふわふわと踊っている様子も愛おしくていつもくしゃくしゃっとしたくてたまらなくなるのを必死に抑えていた。
仕事も出来て、家事全般も殆ど一人で出来てしまう一人暮らし経験者の彼。
それに比べて箱入り娘の私は自分の部屋を一日で汚部屋にしてしまうぐらい片付けが下手だった。
だから、せめて料理だけはと料理教室に通って学んで、そこで覚えたレシピを忠実に再現して振舞った。慣れてないこともあって料理に数時間かかっちゃうけど、一緒に暮らせるために一生懸命働いてくれる彼に文句は言えなかった。
だから
「はぁ、筑前煮? がっつり肉食いたかったのに」
「あ……ごめ、お肉、高くて……」
「でも鶏肉買えてんじゃん」
「……」
彼の言う事はいつも正しい。
それに比べて私はいつだって出来損ない。
だから「ごめんね」と必死に言葉を絞り出すしかなかった。
「はぁ。また泣くの。居心地悪いし外で食ってくる」
「うん、ごめん、ごめん……」
私は泣きやすい質なのか、少しでも悪態をつかれると目頭が滲んでしまう。止めたくても止まらない涙をどうすることも出来ず俯いてポタポタ流し続ける私に彼はいつも盛大なため息をつく。
その溜息に私は肩を強張らせて息を詰まらせ、余計に泣いてしまう。
バタン
――一緒に住んで3日目までは、優しく肩を抱いて「慣れてないからしゃーない」と言ってくれた彼。でも、4日目、不機嫌で帰ってきた時に食費が足りないからお肉料理を作れなかった私に噴火して以来――
優しい彼の姿は、どこにもない家となってしまった。
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