第二章 エルマンの準備 ――ある噂――

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 鍵をしまい込み、ナイフを受け取ったフィーネの前で、トーマが布告文を小さく折りたたむ。 「布告文は私がお預かりします。エルマン君がこちらへお邪魔するときまで」  それだけ告げて、布告文を胸元に押し込んだトーマは、小雨の中に待つ牛車へと乗り込んだ。  手綱を執りながら、二人を交互に見遣る。 「それではおやすみなさい。私は河原に戻ります。あとのことはよろしくお願いしますね、アルヴィー。時々、様子を窺おうとは思いますが」 「任せて、トーマさん」  全幅の信頼を寄せた彼の視線に触れて、ヤツガシラが胸を張る。 「こっちは大丈夫。トーマさんこそ何かあれば知らせてね。すぐ飛んでいくから」  フィーネも、トーマに向かって深々と頭を下げた。  心の底からの感謝を込めて、異国の旅人に言葉を綴る。 「今日は本当にありがとうございました。おいしい食事も、すごく嬉しかったです。帰り道、どうぞお気をつけて」  ふふっと笑って応えたトーマが手綱を軽く揺らすと、方術とやらで創られた黒い牛は、ゆっくりと歩き出した。  小雨の奥へと消えてゆく牛車を見送るフィーネに、ヤツガシラのアルヴィーが小さくさえずる。 「さあ、中へ入りましょう。アナタもまずはゆっくり休むといいわ。それで朝になったら、ちょっと追ってみましょうか」 「何を、ですか?」    小首を傾げたフィーネの肩で、ヤツガシラがころころと笑った。 「決まってるでしょ? あの子(エルマン)の暗躍振りを」
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