第一章 旅人たち ――雨の夜のヴィオロン――

30/40
前へ
/50ページ
次へ
四 「倒したのね?」  間髪入れず聞くアルヴィーに、フィーネは首を横に振った。 「いいえ、結局倒すことはできませんでした。最後の戦いで加わった放浪の魔術師が、どんな高温でも絶対に融けないガラスのボトルに封じ込めました。こうして地表に降りた太陽は退治され、九人の冒険者の頭目は爵位と領地を与えられました。それが、このメリエ公国の始まりです」 「それで、その“大災厄(グランド・ディザスタ)”を閉じ込めたガラスのボトルはどうなりましたか?」  トーマの静かな問いに、わずかにうつむいた。  胸にそっと手を当てて、深く息をつく。 「初代の領主さまは、ガラスのボトルを記念に手元に置いておいたそうです。でも地表の太陽がボトルから逃げ出さないように、秘密の錠を栓にかけさせました。ルカニア一番の秘鍵師親方(マイスター)に依頼して」  アルヴィー、トーマ、それにエルマンの顔が、一斉にフィーネへ向く。 「もしや、その親方(マイスター)というのは……?」  トーマの囁くような問いに、フィーネは深く強くうなずいた。 「はい。秘鍵師ライブール工房の先祖です」
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加