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云い知れない不安の予感が広がり始めたフィーネの前で、エルマンが静かに片膝を着いた。
そして今度は彼女を穏やかな笑みで見上げ、穏やかに囁く。
「貴女のご懸念は理解できます、フィーネ嬢。僕たちが“大災厄”の魔物を解き放ってしまわないか、心配なのでしょう?」
胸の内を見透かされ、フィーネはびくりと肩を揺らした。
驚きを隠せない彼女に、黒い異人の若者が真摯に綴る。
「僕たちは、ある目的を以って古代の伝承を渉猟し、玄義と深奥を解き明かそうと試みています。その意味で、貴女の不安は的を射ている。それに僕の素振りも、貴女の不安の種でしょう。たぶん。ですが……」
彼が肩越しに怪少女アルヴィーと料理人トーマをちらりと見遣った。
「先生の魔術の腕と、トーマ師の人徳の片鱗には、貴女も触れたはず。このお二人がいる限り、貴女のご懸念は現実にはなりません。どうかご安心ください、フィーネ嬢」
フィーネはアルヴィーとトーマを交互に見比べた。
うなずく怪少女と料理人の落ち着き払った雰囲気に触れて、フィーネも胸のもやもやが晴れるのを感じた。
小さく息をつき、彼女は片膝を着いたままのエルマンに深々と頭を下げた。
「分かりました。どうか、よろしくお願い致します」
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