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彼女の謙虚な言葉と仕草を受けて、エルマンが深くうなずいた。
「お任せを、フィーネ嬢」
一言答えた彼は、おもむろに立ち上がった。
そして頭一つ高いところから、フィーネに向かって恭しく首を垂れる。
「承った以上、僕は必ずや貴女のご期待に応えましょう。それで、フィーネ嬢と婚約者ハルト殿のご婚礼の儀はいつでしたか?」
フィーネの胸に、ぴしっと痛みが走った。
だが彼女は眉根一つ動かすことなく、気丈に答える。
「二週間後です」
「二週間後……」
彼女の言葉を繰り返し、エルマンが腕組みした。
黙ったまま、半分伏せたトパーズの目を虚空に注ぐ。
口元も真一文字に引き結び、真剣に思考を巡らせているのだろう。
連れの二人も、まるで黒檀の彫像のような異人の若者を静かに見守っている。
そうして数分。
遠退いていたエルマンの視線がフィーネの許へ戻ってきた。
細めた目に冴え冴えと煌めく黄玉の瞳、一癖も二癖もある企みに満ちた蠱惑の微笑。
つい見惚れてしまいつつも、何か得体の知れない悪寒を覚えたフィーネだった。
言葉を詰まらせた彼女の脇から、アルヴィーが弾んだ声を上げた。
「その顔、何か閃いたみたいね」
「おおよそは描けました、先生。フィーネ嬢の貞操の危機を救い、不埒な領主殿に一泡吹かせてやる“出しもの”の絵図が」
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