第一章 旅人たち ――雨の夜のヴィオロン――

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 彼女の謙虚な言葉と仕草を受けて、エルマンが深くうなずいた。 「お任せを、フィーネ嬢」  一言答えた彼は、おもむろに立ち上がった。  そして頭一つ高いところから、フィーネに向かって恭しく(こうべ)を垂れる。 「承った以上、僕は必ずや貴女のご期待に応えましょう。それで、フィーネ嬢と婚約者ハルト殿のご婚礼の儀はいつでしたか?」  フィーネの胸に、ぴしっと痛みが走った。  だが彼女は眉根一つ動かすことなく、気丈に答える。 「二週間後です」 「二週間後……」  彼女の言葉を繰り返し、エルマンが腕組みした。  黙ったまま、半分伏せたトパーズの目を虚空に注ぐ。  口元も真一文字に引き結び、真剣に思考を巡らせているのだろう。  連れの二人も、まるで黒檀の彫像のような異人の若者を静かに見守っている。  そうして数分。  遠退いていたエルマンの視線がフィーネの許へ戻ってきた。  細めた目に冴え冴えと煌めく黄玉の瞳、一癖も二癖もある企みに満ちた蠱惑の微笑。  つい見惚れてしまいつつも、何か得体の知れない悪寒を覚えたフィーネだった。  言葉を詰まらせた彼女の脇から、アルヴィーが弾んだ声を上げた。 「その顔、何か閃いたみたいね」 「おおよそは描けました、先生。フィーネ嬢の貞操の危機を救い、不埒な領主殿に一泡吹かせてやる“出しもの”の絵図が」
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