第一章 旅人たち ――雨の夜のヴィオロン――

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 端麗な相貌に屈託のない笑みを湛え、彼はフィーネに向き直る。 「この際ですから、思いっきり引っ搔き回してあげましょう。婚礼まで二週間、まあ下準備には、そんなにかからないかも知れませんが。とにかくフィーネ嬢は、全て終わるまで僕の指示に従ってくださいね」 「分かりました」  彼女がおずおずとうなずくと、エルマンがアルヴィーとトーマを流し見た。 「もちろん先生もトーマ師も、協力してくれますよね?」 「当然! 何でもするわ」  黒装束の下で拳を握り、鼻息荒く即答したメスカー。  その横に佇むトーマも、好意的な表情で穏やかにうなずく。 「ありがとうございます、先生も、トーマ師も」  にっこり笑ったエルマンが、フィーネに視線を戻す。 「さて、ではさっそく準備に入りましょうか。と言っても、今できるのは準備のための下ごしらえ、のようなものですが」  トーマが静かに笑った。 「料理も仕事も、下ごしらえが大切です。段取り九割、よろしくお願いしますよ」
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