第一章 旅人たち ――雨の夜のヴィオロン――

36/40
前へ
/50ページ
次へ
「もちろん。このエルマンめにお任せ下さい」  悪戯っぽく笑ったエルマンが、フィーネに告げる。 「さて、フィーネ嬢。まず貴女は夜陰と雨に乗じ、工房へ戻りましょう。貴女が工房を飛び出したのは、この夕方のはず。追っ手は掛かっていないようですし、まだ領主も僕たちのことには気付いていないでしょう。もし仮に、すでに工房に見張りが付いていたとしても、今ならまだ一時的な動揺と判断され、怪しまれずに済みますから」 「あ、は、はい」  フィーネは彼の淀みない語りと深い読みに圧倒されつつも、こくこくとうなずいた。  さらにエルマンが続ける。 「貴女の側には、先生に付いていて頂きます。万一の場合の護衛と、フィーネ嬢の話し相手として」 「あ、で、でも……」  思わず口ごもったフィーネの側に、黒ずくめの怪少女が寄ってきた。  両手を腰に当てながら、彼女を見上げてくる。 「まあ、もし工房に見張りが付いていたら、こんな黒づくめ一発で怪しまれるわよね」  自虐的な言葉を吐いたアルヴィー。  しかしフィーネが『そんなことない』と言うより早く、ふふ、と不敵に笑った。 「けれど心配ご無用よ。まあ見ていなさいな、フィーネさん」
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加