第一章 旅人たち ――雨の夜のヴィオロン――

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 エルマンがくるりと背中を向けた。  肩越しに片手を振りながら、天幕の外へと踏み出してゆく。 「それではごきげんよう、フィーネ嬢。四日後の夕刻にお目にかかりましょう。先生とトーマ師も、くれぐれもよろしく」  それだけ告げて、エルマンは止まない雨の中へと姿を消した。  しばらくの間、彼が去っていった夜の奥を見つめていたフィーネの耳元に、肩のヤツガシラが囁く。 「ではアタシたちも行きましょうか。アナタの工房へ。アタシはこのとおりの可愛い小鳥だから、気遣いは無用で大丈夫よ、フィーネさん」  そうしてヤツガシラのアルヴィーは、傍らのトーマへ眼を向けた。 「それじゃ、今度こそ送ってくださるわね? トーマさん」 「もちろん」  静かな笑みでうなずいたトーマは、いつの間にか左手に太い棒を握っている。  金色の軸にもっさりとした白い房が付いていて、見た目は大きな筆のようだ。  だが毛先は真新しく、墨や顔料を含ませたような跡はない。  彼は右手をゆったりとした左袖の中に突っ込んだ。  すぐに取り出した指が摘まむのは、白い紙きれだ。  切り紙細工だろうか、何かの動物の形をしているように見える。 「雨降りだけど大丈夫? トーマさん」
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