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エルマンがくるりと背中を向けた。
肩越しに片手を振りながら、天幕の外へと踏み出してゆく。
「それではごきげんよう、フィーネ嬢。四日後の夕刻にお目にかかりましょう。先生とトーマ師も、くれぐれもよろしく」
それだけ告げて、エルマンは止まない雨の中へと姿を消した。
しばらくの間、彼が去っていった夜の奥を見つめていたフィーネの耳元に、肩のヤツガシラが囁く。
「ではアタシたちも行きましょうか。アナタの工房へ。アタシはこのとおりの可愛い小鳥だから、気遣いは無用で大丈夫よ、フィーネさん」
そうしてヤツガシラのアルヴィーは、傍らのトーマへ眼を向けた。
「それじゃ、今度こそ送ってくださるわね? トーマさん」
「もちろん」
静かな笑みでうなずいたトーマは、いつの間にか左手に太い棒を握っている。
金色の軸にもっさりとした白い房が付いていて、見た目は大きな筆のようだ。
だが毛先は真新しく、墨や顔料を含ませたような跡はない。
彼は右手をゆったりとした左袖の中に突っ込んだ。
すぐに取り出した指が摘まむのは、白い紙きれだ。
切り紙細工だろうか、何かの動物の形をしているように見える。
「雨降りだけど大丈夫? トーマさん」
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