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どことなく不安げに聞いたアルヴィーだが、トーマは動じない。
涼しくも穏やかな表情で、眼鏡の奥に笑みを浮かべる。
「この程度の雨なら、何とかなるでしょう。ライブール工房へ貴女たちを送って、ここへ戻るくらいの余裕はあると思います」
そう答えたトーマは、手のひらに切り紙細工を乗せると、左手の大きな筆でふわりとひと撫でした。
そしてそのまま、ふっと大きく息を吹きかけて、切り紙細工を吹き飛ばす。
ひらひらと天幕の外へと飛んだ切り紙細工が草の上に墜ちた途端、ぼろんと白煙が湧いて立ち、一台の二輪馬車が現われた。
いや、天蓋付きのカートを曳いているのは黒毛の牛だから、正確には牛車だが。
「えっ? これ、どうなって……」
目を丸くして突っ立つばかりのフィーネをよそに、肩のヤツガシラがころころと楽しそうに笑う。
「こう見えて、トーマさんは方術の達人なのよ。東大陸は、この大陸とは術法の体系が違うから、アナタたちは見たこともない術でしょうけれど」
自慢にそう言って、鳥のアルヴィーはフィーネを促した。
「さあ、大丈夫だから牛車に乗ってちょうだい、フィーネさん。コレで、アナタの工房まで送ってもらいましょ」
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