第二章 エルマンの準備 ――ある噂――

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 そう言って、フィーネはカートの床に両手を着いた。  ヤツガシラが彼女の肩から頭へ飛び移るのと同時に、四つ這いでカートの後ろから玄関先へと降り立った。  堅く閉ざされた扉には、あの無情で破廉恥な布告分がナイフで突き立てられたままだ。  何とも言えない重苦しさに胸が(つか)え、うなだれたフィーネ。  その耳元で、肩に戻ったヤツガシラのアルヴィーがそっと囁く。 「大丈夫よ。アタシたちが付いてるから。あの(エルマン)も本気を出したみたいだし、心配しないで」 「ありがとうございます」  心の底に小さな灯火ほどの光と温かさを覚えつつ、フィーネはピナフォアのポケットから鉄の鍵を取り出した。  頭の部分は八角形をしていて、よくある鍵と比べると全体的に少し厚めに作られている。 「見たところ、そんなに変わった感じはしないけれど、それが特殊な鍵?」  興味深そうなアルヴィーに、フィーネは掌の鍵を見つめてうなずいた。 「ええ。三つの部分からできた、特殊な鍵です。ハルトが考え出した……」  領主の館へ連れ去られた優しい恋人の面差しがありありと脳裏に浮かび、フィーネはうなだれた。
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